パイオニア新妄想紀行 vol.11 ~ゼンディカーの夜明けで遊ぼう~

By まつがん

1. 『ゼンディカーの夜明け』発売とマナベースの拡充

 さて先週末に新セット『ゼンディカーの夜明け』が発売したわけだが、やはり他のフォーマットに対するそれに負けず劣らず、パイオニア環境に対してもかなり大きな影響を与えることとなった。
 

▲《清水の小道》
▲《岩山被りの小道》

 なかでも最も大きなものはアンタップインの両面土地で、これらは特にギルランの他はシャドウランド (いわゆる「見せラン」) くらいしかアンタップインの土地がなかった友好色のマナベースを大幅に改善する結果をもたらした。
 
 赤黒/青白/青緑/黒緑には配置されていないなど不完全な部分はあるものの、一部の友好色のデッキを作る際の制約が一つ取り払われたことは、環境の多様化を導くポジティブな材料となることだろう。
 
 では、それを踏まえて現環境はどのようなメタゲームとなっているのか。
 
・Tier1
黒単アグロ
・Tier2
エスパーヨーリオン
白黒/白緑オーラ
・Tier3
ジェスカイルーカファイヤーズ
ナヤウィノータ
青白/バントスピリット
ニヴミゼット再誕
ティムール/4色再生
4色オムナス
赤黒パイロマンサー
赤緑アグロ
 
 これを見ればわかるように、『ゼンディカーの夜明け』はマナベースや除去などで各デッキを堅実に強化はしたものの、新しいアーキタイプという観点ではトップメタに食い込むほどのポテンシャルを持つものは (少なくとも現時点では) 生み出せていないようだ。
 
 したがって目立った弱点がない黒単アグロの天下はまだしばらく続きそうだが、それでもデッキの多様性という観点では、Tier3以下のデッキが徐々に広がりを見せている点に注目しておきたい。
 
『サンプルデッキ:赤黒パイロマンサー (SoulStrong チャレンジ準優勝)』
 

枚数 カード名(メインボード)
4 《山》
4 《沼》
4 《血の墓所》
2 《寓話の小道》
3 《竜髑髏の山頂》
2 《凶兆の廃墟》
2 《ロークスワイン城》
1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》
1 《アガディームの覚醒》
4 《縫い師への供給者》
4 《若き紅蓮術士》
4 《戦慄衆の秘儀術師》
3 《死の飢えのタイタン、クロクサ》
4 《致命的な一押し》
4 《思考囲い》
4 《村の儀式》
2 《血の長の渇き》
1 《塵へのしがみつき》
2 《戦慄掘り》
3 《立身+出世》
2 《コラガンの命令》
枚数 カード名(サイドボード)
1 《夢の巣のルールス》(相棒)
4 《マグマのしぶき》
4 《虚空の力線》
2 《強迫》
2 《大群への給餌》
2 《失われた遺産》

 
 
 
『ゼンディカーの夜明け』発売前、環境の終盤で注目を浴びたミッドレンジ。それ以前からも存在していたが、環境から強力なコンボが消えたことを受けて相対的にポジションが上昇したものと思われる。
 
『サンプルデッキ:白緑オーラ (yashimoro チャレンジ優勝)』
 

枚数 カード名(メインボード)
7 《平地》
4 《寺院の庭》
4 《枝重なる小道》
4 《マナの合流点》
4 《林間隠れの斥候》
4 《命の恵みのアルセイド》
4 《上級建設官、スラム》
1 《アダントの先兵》
4 《ケイラメトラの恩恵》
4 《天上の鎧》
4 《歩哨の目》
4 《結束のカルトーシュ》
4 《グリフの加護》
4 《きらきらするすべて》
4 《成長の季節》
枚数 カード名(サイドボード)
1 《夢の巣のルールス》(相棒)
3 《静寂をもたらすもの》
3 《不可解な終焉》
3 《墓掘りの檻》
2 《羽ばたき飛行機械》
2 《アダントの先兵》
1 《消去》

 


 
オーラデッキの弱点はマナベースにあり、《執着的探訪》《圧倒的洞察》を擁する青や、《林間隠れの斥候》《成長の季節》を擁する緑を相棒にしようにも、パイオニアにおける友好色のマナベースが貧弱すぎてテンポロスが著しくなってしまうため、対抗色になる黒や赤を相方にせざるをえないというのがあった。
 
 だが、上で述べたように『ゼンディカーの夜明け』で登場した「小道」シリーズによって一部の友好色のマナベースは劇的に改善された。オーラに限らず、これからはかつて存在した2色デッキがより適切な2色目を得るというマイナーチェンジを施されて活躍していくことになるかもしれない。
 
『サンプルデッキ:赤緑アグロ (Mogged チャレンジ優勝)』
 

枚数 カード名(メインボード)
6 《森》
6 《山》
4 《踏み鳴らされる地》
4 《岩山被りの小道》
1 《根縛りの岩山》
4 《ラノワールのエルフ》
4 《エルフの神秘家》
4 《炎樹族の使者》
3 《終わりなき踊りのガリア》
4 《砕骨の巨人》
4 《ゴブリンの熟練扇動者》
4 《軍勢の戦親分》
2 《無謀な奇襲隊》
2 《探索する獣》
2 《栄光をもたらすもの》
4 《アタルカの命令》
2 《エンバレスの宝剣》
枚数 カード名(サイドボード)
4 《破壊的な享楽》
3 《引き裂く流弾》
2 《漁る軟泥》
2 《レッドキャップの乱闘》
2 《マグマのしぶき》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》

 

 
 友好2色土地の登場は、白緑だけでなく赤緑というカラーリングにも恩恵を与えている。今まで「1ターン目に緑マナが出せて2ターン目以降赤マナを出せる土地」は《踏み鳴らされる地》《マナの合流点》と条件付きで《獲物道》くらいしかなかったが、《岩山被りの小道》はこのデッキが土地2枚以上でしかキープしない前提で考えると、「一緒に引いた《森》か《山》のうち引けてない方」の面で出すことでマナベースを必ず補完できるので、実質的にその条件を満たす土地として機能する。
 
 1マナのアクションが強力なパイオニアにおいて《ラノワールのエルフ》や《エルフの神秘家》といったマナクリーチャーが出しやすくなったことは、また新たなコンセプトが勃興する材料になるかもしれない。
 
 ……というような環境の動きは今回も一切無視して、例によってクソデッキを作っていくことにしよう。
 

2. The Spy

 『ゼンディカーの夜明け』の中で環境に最も影響を与えたカードは、パイオニアで言えば確かに両面土地かもしれない。だがモダンやレガシーという観点だと、事情は少々異なってくる。
 

▲《変わり樹の共生》
▲《海門修復》

 神話レアの「モードを持つ両面カード」
 
 これらは土地として戦場に出すまでは表面のカードタイプが参照されるため、「土地としてカウントされてデッキに入っておきながら山札の中で土地としては扱われない」という驚異のダブルスタンダードを可能にした。
 
 では、その結果何が起こったかというと……?

▲《欄干のスパイ》
▲《地底街の密告人》

 レガシーで誕生した土地0枚のアーキタイプ、通称「スパイ」がモダンでも構築可能となってしまったのである。
 
 《金属モックス》や《水蓮の花びら》といった、土地以外のカードでどうにか無から捻出していたマナが、「土地だけど土地じゃないカード」から通常どおり生成できるのであれば、何もわざわざ無理をする必要はない。かくして「スパイ」はモダン環境を荒らしまわる超速コンボデッキとして環境に定着することとなった。
 
 ところで、実は《欄干のスパイ》も《地底街の密告人》もパイオニアのカードプールに存在しているのである。
 
 ならばモダンだけではなくパイオニアでも「スパイ」を組んでみようと考えるのは自然の成り行きであると言えよう。
 
 そう思ってデッキを作り始めたところ、既に先駆者がいたのを発見した。
 

 
 《這い寄る恐怖》を3~4枚誘発させ、《銀打ちのグール》とそれによって誘発した《秘蔵の縫合体》でとどめを刺すこの構成は、確かに理に適っているように思えた。
 
 だが、同時に一つ疑問があった。「この構成はスピードが足りておらず、全体除去に捌かれてしまうのでは?」という点だ。
 
 クリーチャーの攻撃によるフィニッシュを想定すると、もし一撃で相手を仕留められなかった場合、《至高の評決》だけですべてを失う結果に終わってしまう。コンボデッキとして、それはあまりにも脆弱すぎるように思われた。
 
 だが、かといって他にどうすればいいのか。
 
 殴らないで勝つというなら、特殊勝利を決めるしかない。だが、ライブラリーがない状態で特殊勝利を決める方法など……。
 
 あった。
 

▲《立身+出世》
▲《タッサの神託者》

  《立身+出世》と《回生+会稽》で《タッサの神託者》を釣って勝てばいいのでは???🤔🤔🤔
 
 コンボパーツが増えてしまうものの、もともと1枚コンボだったものが2枚コンボになるだけ。それによって得られる見返りは、とりわけコントロールがメタゲームの上位に位置する現在のパイオニアにおいては、十分すぎるものと思われた。
 
 こうしてできあがったのがこちらの「The Spy」だ!
 
『The Spy』
 

枚数 カード名(メインボード)
4 《変わり樹の共生》
4 《アガディームの覚醒》
4 《エメリアの呼び声》
4 《絡みつく花面晶体》
4 《巨森の補強》
4 《バーラ・ゲドの復活》
4 《ペラッカの捕食》
2 《ハグラの噛み殺し》
4 《森の女人像》
4 《楽園のドルイド》
4 《地底街の密告人》
4 《欄干のスパイ》
4 《立身+出世》
4 《回生+会稽》
2 《世界棘のワーム》
2 《腹背+面従》
2 《タッサの神託者》
枚数 カード名(サイドボード)
4 《神聖の力線》
4 《自然のままに》
4 《神の導き》
3 《撃墜》

 

 
モダンでも絶賛活躍中のアーキタイプが、パイオニアにコンバートされる。コンボパーツが増えているにせよ、よりカードプールが狭いフォーマットに転向する以上、このデッキは理論上最強と思われた。
 
 しかし、あにはからんや……。
 

 パイオニアの決着速度自体は平均4~5ターンとモダンから1ターン程度しか遅れていない現状があり、2枚コンボと思いきや実質マナクリーチャーも含めた3枚コンボになってしまっている点がネックとなって、シビアなマリガン基準が足を引っ張る結果となってしまった。
 
 かといって、モダンにおけるそれのように《欄干のスパイ》を1枚出しただけで勝てるような構成にはできない以上、もはや伸びしろはない……と、そのようにも思われた。
 
 だが、私は気が付いたのだ。最初に載せた先駆者の構成。あれならば、《秘蔵の縫合体》が戻ってくるのは対戦相手のターンの終了時のため、全体除去は最初からほとんどケアできていたということに。
 
 とはいえ、青黒型ではスピードが足りていないことに変わりはない。
 
 ならばどうするか。
 
 私が組み上げたマナクリ型の構成とのハイブリッドを目指せばいいのだ。
 
『The Spy -完成版-』
 

枚数 カード名(メインボード)
4 《変わり樹の共生》
4 《アガディームの覚醒》
4 《エメリアの呼び声》
4 《海門修復》
4 《絡みつく花面晶体》
4 《巨森の補強》
4 《バーラ・ゲドの復活》
2 《ペラッカの捕食》
4 《森の女人像》
4 《起源の柱》
4 《地底街の密告人》
4 《欄干のスパイ》
4 《秘蔵の縫合体》
3 《銀打ちのグール》
4 《這い寄る恐怖》
4 《神聖の力線》
1 《世界棘のワーム》
1 《憑依された死体》
1 《悪戦+苦闘》
枚数 カード名(サイドボード)
4 《自然のままに》
4 《タッサの神託者》
4 《虚空の力線》
1 《神の導き》
1 《腹背+面従》
1 《沼》

 

 
このデッキはまだ対人戦で一切のテストプレイをしていない……だが、現時点でパイオニアの一線級のデッキと渡り合えるポテンシャルがあることは間違いないと思われる。
 
 正直クソデッキというにはあまりにガチなので対戦相手の顰蹙を買うかもしれないが、環境に許されたバグということで、理不尽なゲームをできる限り楽しんでもらいたい。