『ディアブロ II リザレクテッド』開発者インタビュー! 20年ぶりによみがえった“地獄”は、どのように作られたのか!?

アクションRPGの金字塔!

 9月24日にBlizzard Entertainmentから発売された、プレイステーション4、プレイステーション5、Nintendo Switch、PC、Xboxシリーズ用ソフト『ディアブロ II リザレクテッド』。そのもととなっているのは20年前に発売されたPC用ソフト『ディアブロ II』だが、長き時を経てついに、ハック&スラッシュと呼ばれるアクションRPGの草分けであり、金字塔でもあるこのゲームが、家庭用ゲーム機用ソフトとしてよみがえってしまったのである!!

 最近も、20年前のオリジナル版を吐くほど遊び続けた大塚角満が、『ディアブロ II リザレクテッド』のテスト版を遊んだ感想をコラムでしたためている。

 今回は、発売から1週間が経過したタイミングでなんと、『ディアブロ II リザレクテッド』のデザイン・ディレクターのRob Galleraniさんと、エンジニア・スペシャリストのKevin Todiscoさんにマスコミ各社による共同インタビューが実現!! リマスターする上での苦労話を中心に切り込んでみたぞ!

▲デザイン・ディレクターのRob Galleraniさん。

▲エンジニア・スペシャリストのKevin Todiscoさん。

“当時のまま”へのこだわり

--『ディアブロ II リザレクテッド』をβテストの段階から遊んでおりまして、改めて20年前にプレイしたオリジナルの『ディアブロ II』そのままだなと感じました。この“当時のまま”をコンセプトにされた理由を教えてください。

Rob Gallerani 『ディアブロ II』は20年も昔のゲームということで、アクションRPGというジャンルにおいては大御所であり、金字塔とも呼ばれる存在になります。ゆえに、20年前に多くの人が遊んだ感覚をそのままキープしなければいけない……という思いが、開発の大前提にありました。そしてもうひとつ、大事なことが、2021年現在ではオリジナルの『ディアブロ II』を知らない人がたくさんいるという事実です。そんな人たちに、まずは当時の雰囲気そのままの『ディアブロ II』を遊んでもらいたい。でも、いまの時代に合わない要素は潰していかなければいけなかったので、細かなところではいろいろと手を加えています。それでも、20年前に熱狂した方々に「当時のままじゃん!」と思っていただけているようなので、それは非常にうれしく思います。

Kevin Todisco いちばん大きかったのは、オリジナル版に対する開発チームのリスペクトです。そこをキープしつつ、新しい時代に『ディアブロ II』を復活させるために、さまざまな部分にこだわりを入れ込んであります。

--当時のままゆえに、いまの時代のゲームでは「不便だな」と思う要素もそのまま残されているじゃないですか? たとえば、インベントリ(持ち物)の枠が少なくてアイテムをたくさん持てないとか、ポーションとかがスタックされなくて1個1個で枠を使ってしまうとか……。これらを“あえて”残される判断をされたと思うのですが、葛藤などはなかったのでしょうか?

Rob Gallerani かなり初期の段階で、これについては深く話し合いました。オリジナル版に手を加えたほうがいいんじゃないかととくに検討されたのが、インベントリの大きさ。もっと大きくして持ち物をたくさん持てるようにしたほうがいいのでは? という意見が出ました。もうひとつ、スタミナに関しては、「いっそ、なくしてしまってはどうだろう?」という案も出ていたんです。確かにスタミナに関しては、レベル15くらいまで育てればほとんど気にならなくなるので、だったら最初から削除してしまってもいいのでは? と……。しかし、これらを勘案して検証したところ、じつはそれぞれの要素は複雑につながっていて、ひとつをなくすと抜本的にゲームの根底から見直す必要が出てくるということがわかりました。たとえばスタミナの要素をなくしてしまうと、まず“スタミナポーション”はいらなくなります。さらにフィールドのあちこちにあるスタミナの祠もいじらなければならなくなる。加えてインベントリも、大きさを変えるとなると街と行き来する回数などが変化して、ゲームのコンセプトすら変わってきてしまう恐れが出てきました。それらを総合的に考えて出した結論が、これらの要素は“そのまま残す”という判断です。

Kevin Todisco 何を変えて何を残すのかに関しては、本当に長い時間をかけて話し合いました。あまりにも劇的にいじってしまうと、一線を越えてしまいます。つまり、『ディアブロ II』らしさがなくなってしまうということです。制作中、それを少しでも感じたら立ち止まって、「やめよう」とストップをかけていました。そんな中でも、オリジナル版からアップデートできた要素としては、たとえば落ちているゴールドを自動でピックアップするようになったり、共有のスタッシュ(アイテムの保管場所)を用意したり……。ゲーム性そのものには影響を与えず、プレイ感覚を損なわない程度の、痒い所に手が届く改良を施してあります。

--……昨今の、じつに行き届いたぬるま湯のようなゲームに慣れきっていたので、『ディアブロ II リザレクテッド』をプレイして身が引き締まる思いです(笑)。

Rob Gallerani あははは。じつは開発陣の中にも、オリジナルの『ディアブロ II』を遊んだことのない者もいたんです。若いクリエイターは、とくにそうですね。彼らはまさに、近年の親切極まりないゲームで育ってきましたから、『ディアブロ II』で遊ぶといちいち引っ掛かるわけです。クエストを受けても、その場所を懇切丁寧に教えてくれませんから、「え?? どこに行けばいいの?」と戸惑っていますし、弓を使うときも矢をセットしないで遊んでいる……(笑)。そのたびに驚く彼らに言う言葉は、「これが『ディアブロ II』なんだよ」です。ある意味、教育しながら開発をしていました。
 『ディアブロ II』のオリジナル版は、古いボードゲームなどが流行っていた時代に作られたものです。そういった時代のテイストは消してはいけないと思って、開発を続けていました。

Kevin Todisco じつは僕が、その“ぬるま湯に浸かっていた、オリジナル版を知らなかった男”のひとりで(苦笑)。でも、昔ながらのハードコアなアクションRPGは返って新鮮で、楽しかったですよ。

--開発期間はどれくらいに? また、作るにあたってもっとも苦労した点はどんなところでしょうか?

Rob Gallerani まず開発期間に関しては細かくお伝えできないんですけど……かなりかかりました。難しかった点は、新しいプレイヤーとオリジナル版を知っているプレイヤーの両方が楽しめるゲームにしなければいけない……という点でしょうか。たとえば、コントローラーへのサポート。新規のプレイヤーは、なんの躊躇もなくコントローラーでのプレイを受け入れます。でもオリジナル版はPCでのマウスとキーボードの操作だけでしたので、当時を知る人はコントローラーでの操作に若干違和感を感じるんです。この感覚のズレを可能な限りなくすことが、開発当初からの大きな課題のひとつでした。

Kevin Todisco 細かいことなのですが、オリジナルの『ディアブロ II』は2Dで描画されていたものを、“3Dっぽく見せていた”ゲームです。これをすべて3Dにした場合、あらゆる箇所でごまかしが効かなくなってしまうんですよ。2D表示ではなかったキャラクターの軸を、3Dにした途端に作らなければいけなくなるとか……。もうひとつが、高低差です。階段を上がったり、山を登ったりといった行動も、3Dにしたことにより誤魔化すことができなくなり、キチンと作り込む必要がありました。

--ダンジョン内の暗さの表現が秀逸で、一気に凄みが増したと思います。こういったグラフィックを作るにあたって、力を入れたのはどんな点でしょうか?

Kevin Todisco ダンジョン内の怖さの演出に関しては、やはりライティングの妙にあると思います。当然、現代のゲームエンジンを使って作っていますので、20年前にはできなかった表現や演出をふんだんに盛り込むことができたのではないかな、と。
 詳しく話すと、フィールドやダンジョンにある単純な灯りの光だけではなく、たとえばソーサレスが放った魔法そのものも光源になっているので、まわりのオブジェクトをキチンと照らしています。
 またダンジョン内に関しては、プレイヤーが見える範囲を慎重に調整しています。あまりにもまわりが見えすぎると怖さが半減しますし、逆に暗すぎるとゲームプレイが困難になります。ですのでこの点に関しては、かなり注意して調整しました。

--……いきなりユルいことを聞いてしまうのですが、おふたりが遊ばれているクラスを教えてください!

Rob Gallerani ずっとソーサレスだったんですけど、コントローラーでプレイできるようになってからはアマゾンで遊ぶことが多いです(笑)。というのも、アマゾンの弓とジャベリンの切り替えがコントローラーだとじつにスムーズにできるので、ついついハマっているという……。あと、ネクロマンサーも楽しいですね! 美しく生まれ変わった映像で、ガイコツ軍団をゾロゾロと引き連れて遊ぶのがおもしろいですよ!

Kevin Todisco 私は、開発にあたってオリジナルの『ディアブロ II』を遊ぶときに選んだクラスがバーバリアンだったので、本作でも引き続き、バーバリアンで遊んでいます(笑)。

--『ディアブロ II リザレクテッド』が発売されてから1週間ほどが経過しましたが、どのような反応が届いていますか?

Rob Gallerani かなりいいフィードバックをもらっています! なかでも印象的なのが、「20年前を思い出しました」、「『ディアブロ II』に夢中になっていた子どものころの風景がよみがえりました」という、オリジナル版も遊んでいた方々からの声です。オリジナル版も『リザレクテッド』も遊んでいないとこういった反応は出てきませんので、本当にうれしかったですね。
 それと、じつは『リザレクテッド』を発売する前は、新規のプレイヤーは家庭用ゲーム機版に、オリジナルも遊んでいた人はPC版に流れると思っていたんです。でも蓋を開けてみたら、昔からのプレイヤーもけっこうな数が家庭用ゲーム機版で遊んでいて、意外でおもしろかったです。

Kevin Todisco オリジナル版を遊んでいた人は触った直後にたいてい、「これ、昔のとまったく同じじゃん!」という反応をされるんです。でもそこで、グラフィックを当時のものに変えた瞬間(※簡単に切り替えることができるのです)、「うわ!! ぜんぜん違うじゃん!!」と驚いてくれるのがうれしいかな(笑)。

Rob Gallerani 思い出補正が強いので、『リザレクテッド』の画面をパッと見ただけだと、「20年前もコレだったよな」と思うわけです。でもそこで、「実際はこうでした」と種明かしを見せられると……驚きもひとしおですよね(笑)。こんなに荒いグラフィックで遊んでいたのか!! と驚かざるを得なくなりますもん。

--コントローラーでのプレイにも最適化されていますが、将来的にPvPなどが始まったときに、マウス+キーボードのほうが有利になる……なんてことはないのですか?

Rob Gallerani ベースになる部分は、なるべく同じになるように調整しています。ただ細かなところで、どうしても違いはでています。たとえば、キャラの移動はコントローラーのスティックのほうが圧倒的にやりやすいですよね。マウスの場合は、行先をカチカチとクリックして伝えなければいけないわけですから。でも逆に、ターゲッティングはマウス+キーボードのほうが有利。ゆえに、カーソルがないコントローラーでの操作はオートターゲットを導入するなど、可能な限り差が出ないように細かく作り込んでいます。
 ちなみに私は、コントローラーでプレイするほうが好きですね。

--家庭用ゲーム機版ですが、ポーションを使うとインベントリ内にあるものが自動で補充されるじゃないですか? この機能は、PC版に実装される?

Rob Gallerani このフィーチャーだけではなく、コントローラー操作にはあるけどマウス+キーボードには実装されていないものがあります。たとえば、インベントリを自動整理する機能、ベルトの内容を1発で変える機能など……。これをPC版に入れ込むかどうかは、現在検討中なのです。なぜすぐにやらないで検討しているのかというと、何度も言うように『ディアブロ II』は20年前のゲームです。その当時のプレイ感覚を失くしたくない……と感じている人がかなりの割合を占めているので、簡単には変更を加えられないのです。最初の質問の答えにもあります通り、やりすぎて一線を越えてしまうとオリジナル版の良さを消してしまうことにもなりかねないので、こういった点に関しては慎重に検討を重ねているんです。

--ラダー(新しいキャラで、ひとつのシーズンを遊びきるモード)は、いつごろ導入されるのでしょうか?

Rob Gallerani ラダーの開始については“未定”となっております。まずはサーバーの安定を重要視しておりますので、その検証ができてからラダーの導入を検討することになります。

--では、今後のアップデートの予定を教えてください。

Rob Gallerani バグの修正や不安定になっている要素を修正していく作業をし、その後にラダーの準備をしていくことになると思います。また、オリジナル版にはなかった要素の導入も、いまいくつかアイデアが上がってきている段階です。ただ、現時点で具体的なことは申し上げられません。

--では最後に、『ディアブロ II リザレクテッド』のプレイヤーにひと言お願いいたします。

Rob Gallerani 日本のファンの皆さん、ありがとうございます。『ディアブロ II リザレクテッド』を、末永く楽しんでください!