コロコロオンライン超特集!! 『デトロイト』などをローカライズした谷口新菜さんに聞く 海外作品の翻訳秘話!!

 

翻訳者のクセとは?

――そんな、ローカライズ担当の方が扱っているのが、いわゆる“洋ゲー”にカテゴライズされる作品です。かつては洋ゲーっていうと大味なゲームの代名詞みたいに言われていましたけど、最近の日本での評価のされかたって、変わってきたと思いません?
 
私はそうは思いませんね。
 
――え、ホントに?
 
プレイする方は増えたかなと思いますけど、10年前と比べても、気風的にはそれほど変わっていないかな……と思います。一部の、海外でも評価の高い作品は日本でもヒットしますけど、それ以外は昔とあまり変わらない印象ですね。ただ。
 
――ただ?
 
ゲーム実況や生配信をする方が格段に増加して、それを視聴したことで「やってみようかな!」と思われる方も増えてきたと感じます。それでも、「洋ゲーでしょ?」と思われることは、いまでも少なからずある気がします。
 
――個人的には、すごく印象が変わりましたよ。それこそ初代プレイステーションの時代とかは、洋ゲーって聞いただけで避けていたりしましたけど、最近はまったく。むしろ、喜んで飛びついているし。
 

 
プレイステーションの時代だと、日本と海外のゲームって絵の作り方からして違いましたもんね。人物の顔やスタイルなんてとくに。
 
――そうそう。それが、『ゴッド・オブ・ウォー』だったり、「アンチャーテッド」だったりに触れるうちに、「なんか……最近の洋ゲー、ヤバくね!?」と。
 
「アンチャーテッド」の1作目ですか?
 
――そうです。この表現とか演出は海外メーカーならではだなぁと思いました。
 
確かに、そういう点では驚くことは多いです。私が担当しているゲームの開発中のバージョンが届いて、起動した瞬間に興奮したり(笑)。……とは言え私、プライベートでは海外のゲームはほとんど遊ばないんです。
 
――え、それは仕事でプレイしちゃっているからじゃなく?
 
それもあるし、単純にアクションゲームがド下手だからです(笑)。FPSとか、いくら狙っても敵に当たらないので!
 
――そんな新菜さんですが、オススメの海外作品を教えていただけますか?
 
オススメは『ライフ イズ ストレンジ』ですね。
 

 
――あー、『ライフ イズ ストレンジ』! 名作ですね。
 
ローカライズもすばらしいし、ゲーム自体もとてもよくできていました。私はすごく好きですね。あとは……手前味噌なんですけど、『Marvel’s Spider-Man』。洋ゲーが苦手っていう人でもまったく問題ないと思いますし、アクションが得意じゃなくても気持ちよく遊べます。私、自分が担当したタイトルは発売後にプレイしないんですけど、『Marvel’s Spider-Man』は違いました。
 
――それは、開発中に全部プレイしちゃうから?
 
はい。もう、くり返しくり返しプレイするので。でも『Marvel’s Spider-Man』だけはプラチナ(※ゲームをやり込んで得られる実績のこと)を獲りましたよ!
 
――めっちゃやり込んでるじゃないですか!
 
発売されてから「もう1回やりたい!」と思って(笑)。
 
――ちなみに「アンチャーテッド」の1作目は、新菜さんが担当?
 
違います。『1』、『2』、『3』と別の人が担当をしていて、でも『4』がすごいボリュームになるし、「この作品が最後になるかもしれないから、しっかりやりたい」ということになって、私に声がかかったんです。でも最初は一度断ったんです
 
――え、それはナゼ?
 
ほかの人がやられていたシリーズは、後から受け持つのが難しいんです。というのも、ローカライズ担当によってクセみたいなものがあるので、シリーズの途中で替わるとプレイヤー側に違和感を与える恐れがあるからです。それでも、最終的には腹を決めて、『4』から担当することになりました。
 
――ちょっとそこに付随して聞きたいんですけど、海外作品への期待が高まる中、ローカライズする側もかなりのプレッシャーを感じているんじゃないかなと。いかがですか?
 
私、もともとかなりのビビリなので、期待の高まり云々を別にしてもプレッシャーを感じます。ソフトの発売前とか、めちゃくちゃ不安になりますね。
 
――ああ、そうなんですね。
 
自分的には「いいものができた!」と思っていても、遊んだ人すべてがそう感じるとは限らないので。「ここはこういうセリフにしたけど……“これは違う”って言われたらどうしよう……」なんて、つねに思っていますし。というのも私、翻訳時のクセがけっこう強いと思うので、好き嫌いが分かれると思うんです。
 
――クセ……っていうのは、言い回しの?
 
 
そうです。自分では意識していなかったんですけど、何度か指摘されたことがありますし。それと、やっぱり女の人が書いていると思われるみたいです。
 
――あ、そうなんだ。ちょっと意識してチェックしてみます。
 
やめてくださいよ!(笑)
 
――文章って、如実に人となりが現れるからなあ。
 
そうなんですよねー。
 
――じゃあ、自分が担当したゲームが発売されたらエゴサ(※エゴサーチ。ネットやSNSで自分の名前を検索して調べること)したりも?
 
します! 否定的な意見にも目を通して、つぎの仕事の参考にしたりします。
 
――熱量の多いファンほど、鋭い指摘をしてくるからなー。
 

 
その通りですね。先ほど、『アンチャーテッド4』で私に担当が替わったと言いましたけど、発売後に熱心な「アンチャーテッド」ファンが、「キャラ、変わった?」と書き込んでいるのをネットで見たんです。そういうところにいちばん注意を払ってローカライズをしたつもりだったんですけど、すごく好きな人はピンと来るんだなって。勉強になりました。
 
――そうか。シリーズの途中で引き継ぐのは、そういうリスクというか懸念があるんですね。
 
怖いですよ! 最初から関わっていれば、日本語版のキャラ作りは自分でできるので心配はないんですけど、途中からだとそうはいきません。前任者が作ったものをキチンと踏襲しないと、違和感が生まれちゃいますから。ですので引き継ぐときは、ゲームをやり込むのはもちろん、可能な限り前任者と話し合います。
 
――どういうキャラ設定で翻訳をしたのか、確認をすると。
 
そうです。たとえば、いま『The Last of Us Part II』の作業をしている真っ最中ですけど、前任者に徹底的に確認しながら行っています。
 
――ローカライズって、ハンパないな……。これはキチンと記事にして伝えないといかん。
 
弊社の吉田修平(※プレイステーションシリーズのソフト開発を統括する、ワールドワイドスタジオの前プレジデント)に、ずーっと言われ続けていたことがあるんです。「いまは辛くても、きっと将来、報われるときが来るから」って。実際、『Marvel’s Spider-Man』や『Detroit: Become Human』が立て続けに発売され、高く評価されたのを見て、「ホラ、報われたでしょう? がんばってよかったでしょう」と言われました。
 
――吉田さんに言われたら、感動しちゃうなぁ。
 
言われたときは「本当かな?」って半信半疑でしたけど、大きな反響を呼んだのでビックリしました。とくに『Marvel’s Spider-Man』は一般のユーザーさんだけでなく、日本の開発会社の方とかクリエイターにも驚くほどの評価をしていただけたので。
 
――うんうん。『Marvel’s Spider-Man』の発売直後は、クリエイターと飲むたびにその話をしていましたもん。
 
ありがたかったです、本当に。
 

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