異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」 9-2 ~火之国デュエマ 中~

By 神結

 夢を見た。
 
 そこにはすごく懐かしい顔があった。
 これも思えばもう、3年も前の話だ。いや、もうすぐ4年になるのか。
 
「イオナくん、もしもの話だよ」

 彼女はいつもそう言ってから、例え話を始める。
 
「もしもいまモルトを使うなら、どうする?」
「えっ、モルトですか?」

 僕は思考のため、数秒沈黙した。クルミ先輩はニコニコしながら、僕を見ている。
 
「流石に《爆熱天守 バトライ閣》とのコンビ殿堂をリペアするのはちょっと……」
「あーそっちじゃないよ。王様の方」
「二刀龍覇のこと?」
「そうそう」

 改めて考えて直してみる。
 
 いや、やっぱり無理でしょ。火水バスターしかいないこの世で。《”龍装”チュリス》どーすんだ。
 そう伝えると、クルミ先輩はちょっとおかしそうに笑うのだ。

「まぁ、いけるんじゃない?」

 いや、何を根拠にだよ。
 
「そこは自分で考えてくれ。せっかくだし宿題ということにしておこう。まー、大会で3-2するくらいのデッキになれば上出来かな」
「いや、3-2じゃダメでしょ」
「いやいや、違うよイオナくん。優勝できるデッキで優勝を目指すのも大事だが、予選抜けは流石に厳しいかな~くらいのデッキで構築を工夫しながら練度を高めるのも、必要な力だと思ってるからね。せっかくだし、来月の大会はモルト王で出よう。うん、それがいい。それに決めた」
「先輩、勝手に決めないでください」

 とはいえ、クルミ先輩の言うことも理に適っているなとは思った。

 結局、僕はクルミ先輩に言われたとおりにモルト王で大会に参加した。結果は、4-1予選抜けからのベスト8。じゃんけん運や初見殺しで勝ちを拾った部分は相当にあったが、それでも先攻で構えた《無双竜鬼ミツルギブースト》や光を入れたことで採用できた《トップ・オブ・ロマネスク》が想像以上に強かった。
 
 大会後にデッキ構築を見せたところ、クルミ先輩は感心しながらこんなことを言っていた。

「私の想定を超えられると困惑するから、勝手に成長しないでくれ」

 思わず笑ってしまったし、そう言われたのは誇らしくもあったけど、いま思えば結構あれは先輩の本音だったのかもしれない。
 
          †
 
 火之国、轟の地方。
 そこにある宮殿に、イオナはいた。
 
「来週はいよいよ焼との代表戦になります。イオナさん、今回もよろしくお願い致します」
「…………」

 イオナは自分の眼前にいる主の姿を見る。
 名を、轟コウという。
 
「しかしモルト王でガトリングにもあっさり勝ててしまうものなのですね。やはり、私たちの常識と異世界のプレイヤーとの間では認識の違いというのがあるものなのでしょうか」
「……そこは、わからないです」

 どうも、調子が崩れる。
 それもそのはずだ。目の前にいるこの地方の主は、イオナがかつて師事し――そして二度と会うことは叶わないと思っていた紅クルミに、あまりに酷似している。
 
 話し方や口調こそ違うものの、顔や声音は「他人の空似」程度ではない。もはや本人なのだ。
 ただやはり、本人ではないらしい。それなりに話を振ってみたが伝わらない。だいたい本人なら――とは思うが、そこから先は口にはできなかった。
 
 正直、接し方がわからない。
 
「焼の代表はレッドゾーンを使います。デッキはそれに合わせて構築していただきますよう、よろしくお願いします」
「レッドゾーン、ですか……」
「対戦経験はありますよね?」
「まぁ、一応あるにはあるんですが」

 それはもちろん「火自然軸」での話。火単となるとちょっと変えなければいけない。
 というのも、この対面はガトリングよりはるかに厄介なのだ。速度では確かにガトリングなのだがアタッカーの質が違うし、何よりレッドゾーンには《伝説の禁断 ドキンダムX》がある。

▲革命第3章「禁断のドキンダムX」収録、《禁断 ~封印されしX~》
▲革命第3章「禁断のドキンダムX」収録、《伝説の禁断 ドキンダムX》

 この対面はドキンダムを直接除去するのはほぼ不可能だ。一応《龍の極限 ドギラゴールデン》というカードもあるにはあるが採用していないし、今回もどっちにしろ使えない。

<火之国デュエマ ルール解説>

・火文明単色のカードしか使えない。

 
 そして、特に先攻を取られたり《超音速 ターボ3》が絡んだりするとおおよそ禁断は解放していまう。
 
 だからあらかじめ《真聖教会 エンドレス・ヘブン》を出しておき、ダイレクトアタックに《ボルシャック・ドギラゴン》を合わせて自爆、それで楯を増やして受ける……なんてギミックを使っていたのだが、「火単」ルールではおおよそ使えない戦法だ。
 
 となると、いかに禁断を解放されないかが勝負となる。ここら辺への対策カードも、何か考えておかなくてはいけない。

▲「超王道戦略ファンタジスタ12」収録、《一撃奪取 トップギア》
▲王来篇第3弾「禁断龍VS禁断竜」収録、《Re:奪取 トップギア》

 
 また、当時と違ってトップギアは8枚使えるしG・ストライクでモルト王のワンショットは止まるしで、ちょっと厄介な部分も増えているのだ。

「考えておきます、それまでには」
「ありがとうございます。この戦いには火之国の統一がかかっていますからね、よろしく頼みます」

 それを聞いて、1つ未解決の疑問が残っていることをイオナは思い出した。
 
統一を成し遂げたあとって、どうするつもりなんですか?」

 これは単純な疑問だった。他の地域の人間が統一そのものにあまり興味がなさそうな分、コウだけ浮いて見えた。

「なるほど、イオナさんはこの国の歴史を知らないですからね。元々はこの国は1つだったんですよ。それがいつの間にか、神の使いが国を3つに分割してしまって……」
「…………」

 歴史というより神話みたいな話だった。正直、真実味がない。
 とはいえここは異世界である。イオナやイオナの世界の常識が通用するわけではない。それは重々承知もしている。だから、ひとまずこの話は黙って聞いていた。
 
「ただどの地域もいまは統一には理解を示してくれて。だったら、デュエマで決めてしまおうと。結局本当に大事なことは皆で話し合って決めることにはなりそうなので、まぁお祭りみたいなもんだと思っている人も多いんですよ」

 ちなみにコウは、質問に答えていない。

「……それで、統一したら何をするおつもりで?」
「……私は、伝説を確かめたいのです」
「伝説……?」

 この神話の中に、まだ伝説みたいな話がある?

「それはまだ貴方が知る必要はありませんよ、森燃イオナさん。ただ、私には浪漫があります。私の浪漫に、しばらく付き合ってくださいね」
「…………」
 
 有無を言わせぬ、というのはこういうことなのだろうか。
 もしかしたら本来なら、あるいは断っていたかもしれない。デュエマをやるのはともかくとして、コウとの温度差がありすぎる。気分がそこまで乗らないのだ。

 だがこの顔で、この声で言われてしまうと、――絶対に彼女は紅クルミではないとわかっていながらも――イオナは首を縦に振るしかなくなってしまうのだ。
 
          †
 
 紅クルミとの出会いは、4年ほど時を遡る。
 
 高校受験を終えたイオナは、受験勉強中に脳内で構築していたデッキの強さを確かめるべく、地元のカードショップへ出向いていた。その日はちょうど大会が行われており、そのまま参加した。
 
 使っていたのはハンデスコントロールデッキ。
 
 いま思えば決して強いデッキではなかったものの、運良く決勝に勝ち進んだ。もちろん当時は実力だと思っていた。
 そして決勝で当たったのが、紅クルミだった。
 
 その試合、かなり引きもよく序盤から優位にゲームを進めていた。勝った、やはり自分はカードゲームの才能がある。そう思った。
 ところが、そこから決して大きなミスをしなかったにも関わらず、気付けばゲームをまくられていた。
 正直信じられなかった。
 
 そのまま帰ろうとした相手を呼び止め、お願いした。
 
「すみません、大会関係なくもう一戦してくれませんか?」
「ええ、構いませんけど……」

 そう言って、もう1回ボコボコにされた。結局10回くらいやってもらい、一度も勝てなかった。
 カードゲームで、こんなに負けることある? そう思って、素直にデッキの感想を聞いてみることにした。

 すると彼女は、少し言葉を整理しながら、こう言った。
 
「妨害やコントロール札は多いけど、結局押しつける要素が一切ないからこっちは基本的に『何もしなくていい』状態が多かったかな。ハンデスの弱点でもあるんですけどね。あと多面を処理する能力も低いから、こっちが2体展開したときやちょっと除去に強いカードを出すと困ってるように見えましたし。あとはまぁ、プレイングもあるとは思いますけど。最初の試合とかはもう少し盤面早く作って殴っていれば、私が負けてたんじゃないかな」

 思えば当然のことなのだが、その時は考えたこともなかったような欠陥が、次から次へと言語化されていく。
 しかも、それは全て納得できるものだった。
 
 そして言い終わったあとに、彼女は「あっ」という顔をしていた。たぶん、言い過ぎだと思ったのだろう。
 
 だが、個人的にそれは嬉しかった。
 そこから先は、いま振り返っても自分でも驚くような行動力を発揮した。

「あの、お名前訊いてもいいですか?」
「名前ですか? 紅クルミです」
「森燃イオナと言います。お願いです。僕にデュエマを教えてください」

 彼女は相当渋っていたが、そこをなんとかと頼み込み、最後はなんとか押し切って認めてもらうこととなった。

 その後、彼女をクルミ先輩と呼び、デュエマの基礎的な概念や構築における知識などを学んでいった。

 弟子に対する彼女の要求は、思えばかなり過大なものではあった。彼女自身も、何かネジがぶっ飛んでいる部分があった。環境デッキの長所と短所を翌朝までに原稿用紙10枚でまとめてこい、なんていうのは「方法がわかる」分、優しい方だった。「未完成でもいいから何か閃いてきてくれ」と言われたときは、流石に途方に暮れた。
 
 課題の出来が悪いとあれこれ言われるわけだが、言われたあとに「……まぁ、色々言ったけど一旦いいんじゃないかな」みたいな適当な締め方をするのも、お決まりだった。
 
 とはいえ、彼女も自分もカードゲームの才能自体はやっぱりあったらしい。要求していることの背景はなんとなくわかったし、一応それなりに段階を踏んだ要求であることもわかってはいた。そしてその中で、なんとかこなすこともできてはいた。色々言いたいことはあるが、それはそれでかなり幸せな日々ではあった。
 
 ただ彼女は不思議な表情をするときがあった。何処か遠くを見詰めながら、物思いに耽っているときがあった。その表情は何やら不気味だったし、でもすごく綺麗だった。

 そしてそこから半年くらい経った頃だろうか。ある日突然、こんな質問を投げられた。
 
「イオナくん、もし君が大会でループパーツと楯回収カードが同時に楯落ちしていた場合、どうする?」

 細かなやり取りまで正確に覚えていないが、割り切ります、といった旨を答えたのは覚えている。
 そしてそれを聞いた彼女は、こう言うのだ。
 
「それがいまの私、というわけなんだよ、イオナくん」

 意味がわからなかった。
 
「今の私は、ループパーツが楯落ちしたデッキなんだよ。そして残念ながら楯落ち回収カードもないし、ビートプランもない。文字通り、ただ死を待つだけの身なんだ」

 やはりわからなかった。

 だがその後、すぐにわかった。本当にそれは、文字通りの意味だったのだ。
 彼女は何やら不治の病に侵されており、余命が間もないという話だったのだ。
 
 衝撃的な話だ。ショックで、3日は動けなかった。その後クルミ自身に叱責され、無理矢理立ち直らされた。

 思えば、弟子入りを相当に渋られたのも、その後の過大な要求についても、彼女の残りの人生の短さゆえだったのだ。

「君から乗ってきた船だぞ。覚悟を決めてくれ、イオナくん。私は半年前から決めてたんだ」

 この言葉は、いまでも一言一句覚えている。

          †

 代表戦の日が、再び巡ってきた。会場は前回と同じ、宮殿広場。
 両地域の関係者たちが集まっているのも、同じ。
 
 改めてみると、確かにお祭りと言えるかもしれない、とイオナは思った。今回は太鼓叩いてる人もいるし、笛吹いてる人もいる。神輿なんかも飾られていた。
 
 ただコウは真剣そのものだった。彼女は勝利を願っているし、その重圧も感じる。
 勝利の先に、何らかの野望を抱いているのは明白だった。こんなに不気味な応援を受けることもないだろう。
 
 やがてゲームが始まった。

 今回もイオナは先攻を持つことができた。「禁断解放をさせないこと」を目指すゲームであるので、先後手の差は大きい。

 まず後手で出てきた相手の《一撃奪取 トップギア》に対して、これを《ボイル・チャージャー》で破壊する。
 さらに後続のクリーチャーに対しては、《”乱振”舞神 G・W・D》を合わせていった。

▲王来篇第3弾「禁断龍VS禁断竜」収録、《ボイル・チャージャー》
▲新4弾「誕ジョー!マスター・ドルスザク!!~無月の魔凰~」収録、《”乱振”舞神 G・W・D》

 
 今回のコンセプトは「コントロールデッキ」だ。手札とマナを管理しながら、可能な限り盤面を空にし続ける。バイクは初動を挫くと、走るのにそれなりのリスクを伴うのだ。
 
 とはいえ、バイクである以上は相手もいつかは走らなきゃいけない。
 
 相手は《轟速 ザ・Re:ッド》を召喚すると、侵略で《キャンベロ <レッゾ.Star>》が飛んで来た。

▲王来篇第4弾「終末王龍大戦」収録、《轟速 ザ・Re:ッド》
▲王来篇第3弾「禁断龍VS禁断竜」収録、《キャンベロ <レッゾ.Star>》

 なるほど、これもバイクだ。破壊してもアンタップする分、このカードは結構厄介だ。W・ブレイクが通り、楯は残り3枚だ。
 
 《英雄奥義 バーニング銀河》《ジ・エンド・オブ・エックス》などがわかりやすい回答なのだが、6マナしかないしそんなに都合よくカードを採用していない。そもそも、イオナにとってキャンベロは予想外だった。

▲「ファイナル・メモリアル・パック ~DS・Rev・RevF編~」収録、《英雄奥義 バーニング銀河》
▲革命第4章「正体判明のギュウジン丸!!」収録、《ジ・エンド・オブ・エックス》

 
 相手の手札は2枚あって4マナ。上からのカードで《轟く侵略 レッドゾーン》などが走ればそのまま負けてしまう。
 
 ただ困ったときの対応をイオナは考えていた。
 イオナが6マナで召喚したのは、《ブロック・キング》

▲新1弾「ジョーカーズ参上!!」収録、《ブロック・キング》

 
 これはちょっと軽い《永遠のリュウセイ・カイザー》だ。このカードがアンタップしている限り、相手のクリーチャーはタップして出てくるようになるのだ。
 
 これが今回、用意してきた対策だった。
 
 こうなるとレッドゾーン側も困ることになる。この《ブロック・キング》は一旦退けないといけない。

▲革命第1章「燃えろドギラゴン!!」収録、《轟く侵略 レッドゾーン》

 相手は熟考の末、バイクは召喚せずにキャンベロを攻撃宣言、そこに《轟く侵略 レッドゾーン》を侵略で乗せてこれを破壊した。これでイオナのシールドは0枚。残りの封印は2枚。
 
 ただ、これで7マナになった。

▲「ファイナル・メモリアル・パック ~DS・Rev・RevF編~」収録、《怒英雄 ガイムソウ》
▲ドラゴン・サーガ第3章「双剣オウギンガ」収録、《二刀龍覇 グレンモルト 「王」》

 ここで召喚するのは当然《怒英雄 ガイムソウ》であり、効果で出てくるのも当然《二刀龍覇 グレンモルト 「王」》
 イオナは一切迷わずに《無敵王剣 ギガハート》《銀河剣 プロトハート》を装備させると、《轟く侵略 レッドゾーン》に突撃していく。

▲「ファイナル・メモリアル・パック ~DS・Rev・RevF編~」収録、《無敵王剣 ギガハート》
▲「ファイナル・メモリアル・パック ~DS・Rev・RevF編~」収録、《銀河剣 プロトハート》

 
 バトルには負けるが、《無敵王剣 ギガハート》の効果でモルト王は破壊されない。
 1回分、攻撃を稼いだのが重要なのだ。
 
 かくして2回目の攻撃でプレイヤーに攻撃を宣言。
 
「《終末の時計 ザ・クロック》とかないもんな」

 G・ストライクはもう効かない。対象としたいクリーチャーがいないのだ。そしてドラゴンが2回攻撃したことで、《最強熱血 オウギンガ》が龍解する。
 
 オウギンガは攻撃時に、《熱血星龍 ガイギンガ》を呼び出した。

▲「ファイナル・メモリアル・パック ~DS・Rev・RevF編~」収録、《最強熱血 オウギンガ》
▲ドラゴン・サーガ第1章「龍解ガイギンガ」収録、《熱血星龍 ガイギンガ》

 
 完全にG・ストライクを攻略したのだ。
 かくしてダイレクトアタックが通り、イオナは勝利した。

 同時に轟の地域の勝利もまた、確定したのだった。

「よくやってくれましたね、イオナさん」

 轟コウは勝利を見届けると、不敵な笑みを見せていた。

(次回、9-3 火之国デュエマ 下 に続く)

神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemon

フリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。

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