異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」 14-2 ~大怪獣デュエマ 中~

By 神結

・これまでの『異世界転生宣言 デュエルマスターズ「覇」』

 森燃イオナはデュエマに全力で取り組むプレイヤー。

 ある日大会に向かっていたところ、トラックに跳ねられて意識を失ってしまう。
 目を覚ますとそこは異世界で――ということはなく、ごくありふれた景色がある日常に帰ってきていた。

 さっそくデュエマの大会へと向かったイオナ。しかしそこで行われていたデュエマは、イオナの知るデュエマとは全くルールが異なるものであった。やはり、異世界へと転生してしまっていたのだった。

 どんな世界であっても、デュエマをやる以上は一番を目指す――

 これは異世界転生体質になってしまったイオナが、その転生先で行われている”少し不思議なデュエマ”に挑む物語である。

 ドルマゲドンと零龍の封印が解かれ、滅びの道を歩む世界。知ってる街は廃墟と化し、彼らは異形となって蠢いていた。

 だがイオナは、自分を助けてくれた神社の巫女・朧月カグラより、「世界を救え」と告げられる。それは、自分にしかできない使命のような気もした。

 そんなわけでイオナは、この神社で世界を救うための修行に励むこととなった。

 ……だが、世界を救えといっても、一体どうやって?

「ふむ、それはいいタイミングの質問じゃな」

 そもそも、とカグラは口元に指を押し当てながら話を始める。年齢は不明だが、外見的には20代半ばくらいだろうか。口調はともかく、少し高嶺の美人に映った。だが相変わらず、イオナはその表情がこの世の人間のものとは思えなかった。
 目の下にくっきり浮かぶ紋様が、妖しげな雰囲気を醸し出している。曰く、その紋様は「血の宿命」らしい。

「あの大怪獣どもは、元はこの神社に封印され祀られていたものなのじゃ。この九十九神社とは元々、そういう場所じゃからのう」
「だから、クロニクルデッキをお供えしてたんですね」
「うむ」

 カグラはイオナに座布団を勧める。恐らく、話はそれなりに長くなるのだろう。

「ところがある日、魔に取り憑かれた一人の愚か者によって、奴らの封印は解かれてしまってな。そしてこの有様じゃ。一度封印が解かれてしまった以上、再度封印するのは無理じゃのう」
「じゃあ、どうすれば……」
「ふむ。それは気になるはずじゃな」

 カグラはカードを手に取ると、それをシールドとして並べ始めた。

「だから方法は1つしかない。お主をワレの力で過去に飛ばす。そこで、愚か者をデュエマで止めろ
「デュエマで?」
「そうじゃ」

 シールド展開後に手札を揃えると、カグラは続けてバトルゾーンに《終焉の禁断 ドルマゲドンX》と《零龍》を並べた。

『大怪獣デュエマ』で、な」

<大怪獣デュエマ ルール解説>

ゲーム開始時、バトルゾーンに《終焉の禁断 ドルマゲドンX》及び《零龍》がある状態でゲームが始まる。(それぞれ既に禁断爆発、零龍卍誕がなされたものとして扱う)

▲革命ファイナル 最終章「ドギラゴールデンvsドルマゲドンX」収録、《終焉の禁断 ドルマゲドンX》
▲超天篇 第4弾「超超超天! 覚醒ジョギラゴン vs.零龍卍誕」収録、《零龍》

 …………?

「え、つまりゲーム開始時から《零龍》と《終焉の禁断 ドルマゲドンX》が場にいるってことですか? 既に完成された状態で?」
「そうなる」

 いや、それって先攻1ターンで殴って終わるんじゃ……。

「まぁ、そういうこともあるかもしれん。だがその上で。お主は絶対に勝たねばならん」
「いやいやいやいや、だって」

 イオナは《零龍》でワールド・ブレイカーを宣言する。
 イオナの盤面には、まだ未攻撃の《終焉の禁断 ドルマゲドンX》が残っている――

「終わりじゃん」
「はたしてそうかのう?」

 カグラは自分のシールドを開いて見せた。5枚の中から出てきたのは《テック団の波壊Go!》《閃光の守護者ホーリー》などなど……。

▲「革命ファイナル 最終章 ドギラゴールデンvsドルマゲドンX」収録、《テック団の波壊Go!》
▲「革命編 第2章 時よ止まれミラダンテ!!」収録、《閃光の守護者ホーリー》

「テック団で5以下バウンス、《閃光の守護者ホーリー》で全タップ。次のターンにワレの《零龍》がお主の《終焉の禁断 ドルマゲドンX》を殴ればゲームセットじゃ。のう?」
「…………」

 《終焉の禁断 ドルマゲドンX》は2回の除去耐性を持っているが、《テック団の波壊Go!》であれば手足を同時にもぎ取ることができる……というわけである。《零龍》は当然、全てのバトルに勝つ。

「……理不尽では?」
「大怪獣じゃぞ。そんなん理不尽に決まっておろう」

 そう言われてしまうと、そんな気がする。怪獣映画に出てくる怪獣どもが、聞き分けがよかった記憶もない。

「というわけじゃ。時間はないが、1日だけやる。『理不尽』と割り切らずに、色々考えてみることじゃ、イオナ」

 どうやら世界を救うためには、準備が必要らしかった。

          †

 カグラに言われたとおり、イオナは頭の整理をしていた。

 理不尽の極みである『大怪獣デュエマ』。確かに名前に相応しいとも言えるが……。

 ひとまず、カグラが例えで提示したトリガーで固めるのは1つの手ではある。これは先攻1ターンでとりあえず殴ってくる相手に対しての回答になる。

 イオナは境内の建物に保存されていたデュエマカード図鑑を眺める。

 1枚のトリガーで《零龍》を処理できそうなカードに《めっちゃ!デンヂャラスG3/ケッシング・ゼロ》がある。「気に入らねぇやつは消す」と言えば相手のクリーチャーの能力をすべて無視するカードだ。

▲「王来MAX 第1弾 鬼ヤバ逆襲S-MAX!!」収録、《めっちゃ!デンヂャラスG3/ケッシング・ゼロ》

 それによって「このクリーチャーは、パワーが0以下の間離れず、すべてのバトルに勝つ」という零龍の能力が無視され、零龍はバトルゾーンを離れゲームが終わる。トリガー1枚でエクストラウィンだ。

 また先ほどやったように、《テック団の波壊Go!》+何かがあればドルマゲドン側の解体も可能だ。+何か、の部分にどんなカードを取るかはまた難しい話にはなるが。候補としては先攻なら2ターン目に撃てる《スパイラル・ゲート》などだろうか。

▲「第1弾」収録、《スパイラル・ゲート》

 ……となると、正直なところ余裕があるならシールドはなるべく殴りたくない。トリガーの即負けパターンが多すぎる。

 一旦、殴らずに勝てるルートを探してみよう。

 なんかあった気がするのだ。確かプロモカードだったろうか? 「これで零龍倒して下さい」みたいなデザイナーズカードが。
 イオナは、カード図鑑のプロモのページを捲る。

「あった」

▲「月刊コロコロコミック2020年2月号」付録、《ジョギライド・ファイナルフィーバー》

 その名も《ジョギライド・ファイナルフィーバー》だ。
 3コストの呪文で、クリーチャーを1体選んでパワーを+2000し、その上で自分と相手のクリーチャーを1体ずつバトルさせる。パワーを上げるクリーチャーは、敵味方を問わない。
 つまりこのカードで相手の《零龍》のパワーを上げて0でなくすることにより、バトルで倒して勝つというカードである。

 しかしこのカード、ちょっと問題もある。

「火と自然か……」

 《テック団の波壊Go!》などが強いカラーであることを考えると、火と自然はあまり使わない文明である。要するに、このカードの色が弱い。

 できれば《テック団の波壊Go!》や《終末の時計 ザ・クロック》などと同居できるカードで……。

「いや、待てよ。確かなんかあった気がしたな」

 イオナは再びページをめくる。あれでもない、これでもない。《神聖龍 エモーショナル・ハードコア》も、《あたりポンの助》も違う。

 確かあれもプロモだったような……。

「見つけたぞ、コイツだ」

▲「月刊コロコロコミック2020年10月号」付録、《ゼーロJr.&ゲンムエンペラー》

 その名は《ゼーロJr.&ゲンムエンペラー》
 4コストの水闇クリーチャーで、バトルゾーンに出た時にコスト5以下のクリーチャー1体選び、その効果を無視する。

 《ジョギライド・ファイナルフィーバー》よりは1コスト重いが、こっちの方が色は絶対いい。
 ……と思ったところで、テキストをよく読む。

「……ムゲンクライム2?」

 ムゲンクライムとは、自分のクリーチャーをその数字分タップし、数字分のコストを払うことで手札か墓地からクリーチャーを出せるという能力である。

 ムゲンクライム2であれば、クリーチャーを2体タップし、2マナで出すことができる。そしてバトルゾーンには、ゲーム開始時から2体の大怪獣が存在している。
 つまり。

「え、先攻2ターン目に勝てるってこと?」

 なんてことだ。《ジョギライド・ファイナルフィーバー》より軽いではないか。
 ターボ・デュエマの《完全不明》よろしく、このルールの最強カードを見つけてしまった。しかもコイツは先攻2ターン目のカードである。

「方針は決まったか……?」

 あとはデッキリストとして具体化すること、再現性の確認をすること、そして「相手に使われたときのことを考える」ことだ。

「ここからが大変だな……」

 なんせ、相手が先攻2ターン目に勝つカードの対策など、考えようがない。

「まぁ、現実的に後手だったらシールド殴るしかないかなぁ」

 ひとまずイオナは置かれていたカードを引っ張り出しながら、それらを並べてデッキを作りはじめた。

          †

 嗚呼、滅びの宿命は逃れられないのだろうか。

 それは月食の夜だった。空は闇に落ち、月が赤く染まるその夜。異変は起こった。

 目が、紋様が、妖しく光り始めた。身体が、熱を帯びる。熱い。強烈な頭痛に襲われた。

 ……この日がくることは、薄々知ってはいた。これが宿命なのだと。
 だからこの日が来たとき、強く自我を保って、打ち克とうと、心に決めていた。神は乗り越えられない試練は与えないと、そう思っていた。

 だが違った。そうではなかった。

 苦しい、苦しい。内なる何かが、首をもたげてきていた。
 激しく咳き込み、血を吐いた。それでもなお、治まらなかった。

 これは自我で抑えられるようなものでもなく、試練などというものでもないことを、この時になってようやく知った。

 やがて自分が、別な自分に乗り変わったことに気付いた。

 もしも、もしもそこで曖昧に意識が途切れていたら、どんなに幸せだったろうか?
 目が覚めて気付いたら、記憶はないけどこうなっていた。それであれば、どんなに楽だったろうか?

 しかし、現実は残酷だ。そうはならなかった。

 全てを、ハッキリと覚えてしまっていた。封印を解放する儀式も、大怪獣が復活する、その瞬間も――

 やがて零になるための、終焉の、始まり。
 それが課せられた余りにも重い罪とともに、己の中に深く刻み込まれてしまったのだった。

 だが同時に、言葉に出来ない高揚感もまた、感じてしまっていた。

(大怪獣デュエマ 下 に続く)

神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemon

フリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。

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