【プロセカ】ボカロPに直撃! “Ayase”さんが語る“Vivid BAD SQUAD(ビビバス)”と、オリジナル楽曲『シネマ』について!【ボカロPインタビュー企画 #11】

Ayaseさんの曲作りに迫る!

 2020年9月のサービスイン以来、コロコロオンラインがひたすら追い掛け続けているセガ×Colorful PaletteのiOS/Android向けアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。

 2021年10月には1周年を祝した特集を展開し、

『プロセカ』1周年記念特集は下記の画像をクリック!!
 

 さらに2022年10月には『プロセカ』2周年を記念した大特集を実施するなど、担当からほとばしる圧倒的な“プロセカ愛”をカタチにし続けている。

『プロセカ』2周年記念特集は下記の画像をクリック!!
 

 そんなコロコロオンラインプロセカ班がとくに情熱を注いで追っているのが、このゲームの根幹でもある楽曲……そして、それを制作されている“ボカロP”と呼ばれる“才能たち”であります!!

 “子どもが将来なりたい職業ランキング”において、ゲームクリエイターやユーチューバーらと並んでボカロPが上位にランクインし、コロコロの読者層との親和性もめちゃくちゃ高いということで、前述のプロセカ1周年特集の際にボカロ界のビッグネームにつぎつぎとインタビューを敢行!! その内容の濃さは業界内外に衝撃を与え、このたび……不定期連載で、さらに多くのボカロPの皆様にご登場いただき、ナマの声をお届けできることになったのです!!

 『プロセカ』はゲーム内容はもちろん、楽曲のすばらしさが高く評価されて現在の人気を確立したと言っても過言ではない。それらを生み出したボカロPたちの考えかた、作品への向き合いかたを掘り下げたこのインタビュー連載を読まれることで、ゲームを遊ぶだけでは知りえない情熱や、楽曲に対する想いを知ることができるはずだ。その結果……さらに登場キャラやユニット、『プロセカ』そのもののことが好きになること請け合い!!

 そしてインタビューの後半では、“いかにしてボカロPになったのか?”という、将来この道に進みたいと思っている読者の皆様の道しるべになるような質問もぶつけているので、とにかくあらゆる人たちに読んでいただきたいなと!!

 さて今回ご登場いただくのは、“Vivid BAD SQUAD”(ビビバス)にオリジナル楽曲『シネマ』を提供された“Ayase”さんだ。

 超人気ユニット、YOASOBIのコンポーザーとして大活躍中のAyaseさんだが、じつはそれ以前から実力派ボカロPとして知る人ぞ知る存在だった……! そんなAyaseさんが楽曲提供したのは、ビビバスのイベントストーリー『STRAY BAD DOG』。東雲彰人が直面した、挫折、苦悩、葛藤……。才能の差に打ちのめされる彰人に、ビビバスの他のメンバーはどう寄り添っていくのか……? 彼らの心情をダイレクトに表したかのような『シネマ』は、どのようにして生まれたのか? じっくりとお話を伺ったぞ!

※インタビューはオンラインで実施したものです。

自分の心情を詰め込んだ曲に

--Ayaseさんにコレを聞くのが非常に恐縮なんですが……まずは簡単に自己紹介をお願いできればなと!

Ayase はい、わかりました。えー、ボカロ歴で言うと……僕は2018年の12月から始めたので、3年強くらいになるでしょうか。それを経て現在は“YOASOBI”というユニットで楽曲制作を行いつつ、自分で歌ったり、さまざまなアーティストやコンテンツに楽曲提供をさせていただいています。

▲2021年5月、Ayaseタイアップと称し、書き下ろし楽曲『シネマ』とともに、『幽霊東京』、『夜に駆ける』がリズムゲーム楽曲として追加された。

--ありがとうございます! そんな中、今回は『プロジェクトセカイ』にオリジナル楽曲の『シネマ』を提供されています。これはVivid BAD SQUAD(ビビバス)のイベントストーリー『STRAY BAD DOG』に合わせて発表された曲ですが、この依頼を受けたときの率直な感想をお聞かせください。

Ayase 思えば僕が依頼をいただいたときは、まだ『プロセカ』はリリースされていなかったんですよね。そういう意味では、かなり早い段階で声を掛けてもらえたんだと思います。

--あ、リリース前のことだったんですね!

Ayase そうなんです。そもそも『プロセカ』がどういうアプリになるのか……という説明を打ち合わせでイチから説明してもらったことをよく覚えています。その席で制作者の方から、「第1弾アーティスト、第2弾アーティスト……という感じで、協力してもらうボカロPを増やしていきます!」との説明を受けて、なんと言うか……ボカロというものにしっかりと焦点を合わせたおもしろいことが始まるんだな、と感じたんですよね。

--おお……!

Ayase 当時の僕の状況はいまとぜんぜん違って、本当に“ボカロPのひとり”としてお声掛けをしてくれたんです。それは単純に光栄なことでしたし、こんなに楽しそうなコンテンツにボカロPのひとりとして関われるのは喜び以外のなにものでもないので、迷うことなくお受けしました。

--もう2年以上前のことなんですね。

Ayase はい、そうなりますね。確か……YOASOBIの活動が始まった直後くらいだったように思います。

--では、『シネマ』について掘り下げていきたいと思いますが、この楽曲はビビバスのイベントストーリーに合わせて発表されたものです。初めてビビバスというユニットを見たときにどのような印象を持たれましたか?

Ayase じつは打ち合わせの際に各ユニットを紹介していただいたんですけど、その席で「Ayaseさんが曲を作ってみたいと思うユニットはいますか?」と問われ、僕がみずから選んだのがビビバスなんです。

--あ!! そうだったんですか!

Ayase はい、じつはそうなんです。僕はもともと、ストリートの空気をかもしていたり、R&Bの雰囲気を放っているユニットとか音楽がすごく好きなので、ビビバスは自分の楽曲との親和性が高いんじゃないか……とピンと来たんです。とはいえ当時は、キャラクターデザインと彼らの世界観のプロットくらいしか資料がなかったんですけど、単純にかっこよかったですし、何より僕と相性がよさそうだったので、迷わずに選ぶことができました。

※R&B:“リズムアンドブルース”の略。ブルースやゴスペルなどのブラックミュージックから発展した音楽ジャンルのひとつ。

--いまの言葉をお聞きして、『シネマ』とイベントストーリーががっちりとリンクしている意味がわかった気がします。

Ayase そうですね。キャラクターの背景から世界観まで、いろいろと資料を見させていただいてから組み立てていきました。……でも、じつは『シネマ』って、作った当時の僕の心境をそのまま歌っているような楽曲になっているんです。たまたま……ではあるんですけど、彰人を始めとするビビバスのメンバーと僕の心境が重なる部分が多かったので、そういう意味ではすごくナチュラルな気持ちで書くことができました。

--この『STRAY BAD DOG』は彰人がフィーチャーされたストーリーですけど、内容はかなり重めですよね。環境、才能、他のメンバーとの比較とかとか、若者たちの誰もがブチ当たる葛藤を描いたもの。それと、Ayaseさんの心情がリンクしていたと。

Ayase もちろん、完全に同じではないんですけどね。やっぱり僕も……ちょっと赤裸々に言いますけど、YOASOBIというユニットが突発的に発生して、そこに向けた楽曲を作り始めたわけです。でも、僕はもともとボーカリストだったので、“自分が歌わない曲を書く”ということに対して、始めはすごく抵抗があったんですよ。

--おお……! そうだったのですか……!

Ayase 葛藤、ですよね。そんな中でも結果が出てくるわけですけど、うれしい反面、なかなか自分の気持ちがついていけないこともありました。これは……なんでしょうね。まわりの人間に対する嫉妬心とか、自分のやりたいようにはやれていないことから派生する劣等感みたいなものを少なからず感じていたので、根っこにある感情が彰人たちとリンクしていたんじゃないかと思うんです。

▲イベント『STRAY BAD DOG』の書き下ろし楽曲としてリリースされた。

--傍から見ていると、当然ながらAyaseさんは才能にあふれていますし、彰人が感じるような劣等感に苛まれることはないのでは……なんて思いがちですけど、いまのお話を聞いて腑に落ちた気がします。……そのような中で誕生した『シネマ』ですけど、ご自身でとくにお気に入りの歌詞はどのあたりになりますか?

Ayase お気に入りの歌詞、か……! これは、ちょこちょことサビの頭のほうで出てくる“ハマり悪い”というくだり。ここはお気に入りかもしれません。

--ああ! “ハマり悪い”は印象的ですね!

Ayase おかげさまで注目していただけるようになって、それに比例して楽曲もたくさん作るようになったんですけど、つねに忘れないようにしているのは“わかりやすい言葉をうまく使って書くこと”なんです。あまり考えすぎると、すごく説明的だったり、短絡的な歌詞になってしまいがちなんですが、最終的に僕が思ったことと近いものを、聴かれる方に受け取ってほしいんですね。

--はい……!

Ayase とはいえ、自分の感情からゼロ距離で歌詞を書くことって難しいので、「うまくいかないなぁ……」と思う瞬間はいまでもけっこうあるんです。でも、“ハマり悪い”はすごく抽象的だし、俗語っぽいいい回しではあるんですけど、聴いた人の誰もがなんとなくでも“わかる感覚”になる言葉じゃないかと思うんです。フワッとはしているけど、いろいろな場面において「ハマり悪いな……」と感じていると思うので。『シネマ』を聴かれた方の反応を見ても、この歌詞に反応されていることが多いですしね。そういう意味で、自分の感情から近い距離で吐き出せた歌詞だなと思うので、気に入っていますね。

--Ayaseさんが作る歌詞って、YOASOBIの楽曲もそうなんですけど、いまおっしゃったように奇をてらっていないというか、すごくシンプルでわかりやすいのに、響いてくるんですよね。僕も文章を書く人間なので、この機会にぜひお聞きしたいんですけど……どうすればこういった言葉を紡げるようになるんですか!?

Ayase ええええ!(笑) 僕なんてまだまだなんで、非常に恐縮です(笑)。でも、そうですね……。やっぱり、すごく考えます。言葉を紡ぐために受け取るもの……たとえば景色とか出来事からインプットするものって、すごく抽象的じゃないですか。でもだからこそ、自分で吐き出すときはしっかりとした形にして、現実味を帯びた状態で具現化していかないといけないと考えるんです。でも、いまでこそこういうことが言えますけど、僕が昔やっていたバンド時代に作った楽曲って、いま聴くとすごく抽象的なんですよ(苦笑)。言葉の選びかたにしても、「この感覚って……俺にしかわからないよな……!」っていまでも思いますし。とは言え、それがすべて悪いというわけではなく、当時の僕にシンパシーを感じてくれた人にはちゃんと響いていたと思うんですけど、少しでも多くの人に届けたいと思ったら、シンプルに、わかりやすく……ということには意識を向けていきたいですよね。そこで、言葉を紡ぐコツ……というわけではないですけど、僕が歌詞を作るときに心掛けているのが“紙芝居にする”ということ。

--紙芝居?

Ayase 紙芝居ってページ数が決まっているので、すべてを書き切れないじゃないですか。だからこそ、要点をまとめて表現する力が絶対に必要になってくるんです。文字で表現できないことは絵で表しますけど、これは音楽に当てはめると“音”になります。音にフォローしてもらいつつ、ゴチャゴチャと複雑だったり、フワフワとした感情なんかも要点をまとめていくと、いつしかわかりやすい言葉に収束していくはずなんです。そういった作業を辿って辿って……ということをくり返し、「いいな」と思えた言葉を抽出していく--。これがコツというか、いま改めて、「自分はこういうやり方をしているんだな」と思いました(笑)。

--非常に参考になりました……! ありがとうございます! でもこの『シネマ』という楽曲も、聴いているとある種の物語的というか、短編小説を読んでいるかのような感慨を覚えるんですよね。

Ayase ありがとうございます。そう言っていただけると、安心します。

--個人的に、『シネマ』の中にある「最底辺から駆け上がった 映画のようなストーリー」という歌詞が、すごく刺さりました。ビビバスのイベントストーリーと、めちゃくちゃ合致している感じがして。

Ayase それはうれしいです! ありがとうございます。じつは『シネマ』って、ボカロPとしてはめちゃくちゃひさしぶりに出した曲なんです。その空いた期間でYOASOBIの活動が始まったわけですけど、めまぐるしく変わっていく環境の中で、原点回帰的に自身の歩みを振り返る機会が何度かあって……。僕がボカロPになって……3作目かな? だいぶ前に作った楽曲の中に、いまおっしゃった“最底辺”がキーワードになっているものがあります。ほかにも、『シネマ』の歌詞の中には、過去に作ったフレーズをあえてそのまま抜き出して使っていたりもするんです。そういう意味では、“最底辺”からの歌詞は僕もすごく思い入れが強いですし、本当に最底辺にいたよなぁ……と当時の自分を回想したりもするんです。

--『プロセカ』にも収録されているAyaseさんの『幽霊東京』の中に、『シネマ』で使われている「燦然と輝く街の灯り」という歌詞が出てきますよね。

Ayase あ、まさに! その通りです! 詳しくお話すると、『幽霊東京』で語っていることと『シネマ』で語っていることって、かなり近い関係にあるんですよ。

--これは興味深い……!

Ayase 『幽霊東京』は、その中の主人公……僕がそのとき思ったことを歌詞にしているので、僕も主人公のひとりなんですけど、悩みや葛藤を抱えて生きている人がたくさんいるということを、キチンと表現したいと思って作った楽曲なんです。そして『シネマ』は、『幽霊東京』というひとつのストーリーがあって、それと同じ時間軸で別の場所で生きている主人公……という定義で作った曲になります。つまり、『幽霊東京』の主人公が起こすさまざまな事象を、別の角度から『シネマ』の主人公が見ている……という構図になっているわけです。

--!!! な、なるほど……! めちゃくちゃおもしろいですね……! Ayaseさんの楽曲って考察されることが多いと思いますけど、いまの発言はひとつの答えと言うか、核心を突くヒントになっていますよね……!!

Ayase あはは。そうですね。いやでも、そう言っていただけると語る意義をすごく感じます。ありがとうございます。

※下段のMV画面はバーチャル・シンガーver.のものです。

--では、いまの質問と似通っているんですけど、ズバリ、『シネマ』の聴きどころを教えていただきたいのですが!

Ayase すごくこだわったのは“音”です。歌や歌詞ももちろん作り込んでいますけど、『シネマ』はとくにオケ(※ボーカル以外の音。オーケストラ)にこだわりました。僕、インスト(※楽器だけで演奏された曲。インストゥルメンタル)もネット上に公開しているので、機会があればぜひそちらも聴いてほしいんですけど、『シネマ』ではピアノの打ち込みに本当に力を入れています。指から血が出るくらいがんばったので、楽曲の裏にあるピアノの動きに集中して聴いてもらえるとうれしいです。

--それくらい作り込まれていると、制作日数はかなりのものになったんじゃないかと想像するのですが、いかがでしょうか?

Ayase 先ほども言った通り、『シネマ』の歌詞は自分の実体験とか感情に紐づけて書くことができたので、制作期間としてはかなり短いほうだと思います。もちろん、資料を読み込んだり、アイデアを考えたり、テーマを絞っていったり……というフェーズには時間を掛けましたけど、「じゃあ曲にしていこう!」と思ってからは、比較的早かったと思います。ちょっと具体的な日数までは覚えていないんですけど、1ヵ月はかかっていないんじゃないかなと。

--他の楽曲と比べても、すんなりと進んだほうなんですね。

Ayase はい、かなりスムーズだった記憶があります。

--では、実際にゲームに実装されたのをご覧になって、いかがでしたか?

Ayase いや~、うれしいですよね! 僕、もともと音ゲーはすごく好きで、昔はやり込んだりもしていたので、『シネマ』が実装された当初は、YOASOBIのスタッフが楽屋でやり込んでいる姿を「うんうん……! いいね……!」と思いながら眺めていました。音ゲーって、リズムに乗らないと絶対にうまくできないので、ゲームで遊ぶことで『シネマ』をよりリズミカルに感じてもらえるだろうし、そこから「楽曲をフルで聴きたい!」と思ってくれる人も出てくるでしょうし。そういうサイクルが生まれるのを実感できて、うれしかったですね。

--『プロセカ』実装後にいろいろな反響があったと思いますが。

Ayase 僕の楽曲だと『夜に駆ける』も収録していただいているんですけど、どれも……けっこうな難度みたいなんですよね。「難しい!」という声をよく聞くのですが、自分の楽曲でそう言われるのって、なんでかわからないんですけど……ちょっとうれしいです(笑)。あまりにも簡単に攻略されちゃうと、「お、俺の曲って、簡単なんだ……!」とガッカリするというか……。もちろん、難しいものを作ろうなんて思ってはいないんですけど、苦戦しながらもいい点を獲るためにユーザーががんばってくれるのを見るのは、すごくいい刺激になりました。

--Ayaseさん自身は、プレイされたんですか?

Ayase ……これ、本当に悪い意味で言うんじゃないですよ? じつは……意地でもプレイすまいと思って、いまだに触っていません!!(笑)

--えええ!! それはナゼですか!?

Ayase 『プロセカ』のアプリはダウンロードしてありますし、やろうと思えばいつでもできるようにはしてありますよ! でも、自分で作った曲をゲームで遊ぶのって、なんだか恥ずかしいというか……(苦笑)。ですので『シネマ』にしても『夜に駆ける』にしても遊んでいないんです。でも、さっきも言った通り楽屋とかで知り合いがプレイしているのはよく見るんです。そのたびに、「Ayaseもやってみなよ!」って言われるんですけど、「……い、いや俺、クリエイターだしさ」なんて、よくわかんないことを言って断っています……(笑)。

--それは……クリエイターならではの、おもしろい心境ですね!

Ayase 絶対にやったほうがいいのはわかっているんですけど!!(笑)

--でも、Ayaseさんの代わりに……というわけじゃないですけど、『シネマ』を『プロセカ』で遊んだ人たちからポジティブな意見がたくさん出ているじゃないですか。「『シネマ』のおかげでビビバスがもっと好きになりました」とかとか……。

Ayase そう思ってくれたのなら、作り手としてこんなにうれしいことはありませんね。ありがとうございます。

--そんなファンに向けて、ひと言お願いできますでしょうか。とくに、コロコロを読んでいる子どもたちに!

Ayase いつも聴いてくれてありがとうございます。音楽とゲームの絡みって、いろんなカルチャーが結びついて立体的になっていく……という、すごくおもしろいアートだなと僕は思っているんです。『プロセカ』で遊び、『シネマ』を聴いたことをきっかけに、自分で音楽を作ってみるのもいいし、いちユーザーとして遊び続けるもいいし、ゲーム制作に興味を持つのもいいし……。そんなきっかけのひとつとして僕の楽曲に出会ってくれて、本当にありがとうございます。

--ありがとうございます……!! ではここから、将来の夢として「ボカロPになりたい!」と思っている人たちのために用意した質問にお答え願えればなと……! まずは……Ayaseさんが、ボカロPになられたきっかけを教えてください!

Ayase わかりました! 先ほども言った通り、僕はずっとバンドのボーカルをやっていたんですね。いろいろあって活動休止になってしまうんですけど、それからはソロのボーカリストとして活動をしていたんです。でも、ギターが弾けるわけでもなく、歌うことしかできなかったので、その活動もまもなく行き詰ってしまいます。それから悶々と、(バンドを復活させるにはどうしたら……)、(楽曲はこれからも作りたい……)、(でも作ったものをどうやって発信していいかわからない……)などなど、欲はあるんですけど打開する方法が見つからない袋小路に迷い込んでしまうんです。

--はい……!

Ayase そんなとき、僕には妹がふたりいるんですけど、長女のほうがボカロPを始めとするネットカルチャーで活躍されているアーティストの曲をよく聴いていたんです。当時はいっしょに住んでいたので、興味本位で「何を聴いてるの?」と尋ねて聴かせてもらったら……これが、めちゃくちゃイケてるかっこいい曲だったんですよ。「え! なにこの曲!!」と驚いて妹に聞いたら、「これはボカロPが作った楽曲を歌い手さんが歌っているんだよ」と教えてくれて。そのころ、僕はボカロも歌い手さんもまったく知らなかったので、衝撃以外のなにものでもなく。

--うんうん……!

Ayase 慌てて調べたら、その楽曲はボカロPの“Neru”さんが作ったもので、歌い手は“まふまふ”さんでした。それから俄然興味が湧いて、Neruさんの過去の楽曲を聴いたり、ボカロのことを調べまくって、そのジャンルの成熟度を知るに至るんです。それまで、僕が持っていた初音ミクのイメージって、ネギを振っていることくらいでしたからね(苦笑)。そこから、当時の最新ボカロ曲を片っ端から聴いていって、「なんてかっこよくておもしろいんだろう!!」と、再び衝撃を受けます。初音ミクを始めとするボカロの声って好き嫌いはあると思うんですけど、僕はまったく違和感を感じず、むしろ「おもしろい!」と思いました。そして、「ボカロで曲を作ってミクに歌ってもらえば、俺の曲を世に発信できるじゃん!」と確信して自然な流れで『初音ミク』を購入し、楽曲を作り始めるんです。

--ボカロに触ってみて、すんなりと作曲活動に入れたんですか?

Ayase バンドをやっていたときも、メモ書き程度ですけど作曲用のソフトを使ってはいたんです。とはいえ、作曲して且つ完成したものをミクに歌ってもらう……なんて作業に関してはズブの素人でしたので、もうネットで調べまくりです(笑)。しかも、当時は本当にお金がなかったので、1日のほとんどの時間をバイトに費やしていたんですよ。クタクタになって帰ってきたらボカロのことをネットで調べて、『初音ミク』に触ってみて……という作業のくり返し。それでも、やっぱりボカロのソフトって簡単ではないので、ひたすら調べつつ見様見真似で曲を作っていった……という流れでした。

--……でもそのお話、ほんの3、4年前のことなんですよね。

Ayase そうですね。3年ちょっとくらい前のことです。

--うーん、つい最近ですよ。いまのYOASOBIの隆盛を考えると、にわかに信じがたいというか……!

Ayase で、ボカロPとして初めての楽曲は、『初音ミク』を買った2日後に発表しました。2日間でバーーーーッと作って出した感じですね。

--2日間で!!?

Ayase そうなんです。そんなことができたのは、やっぱり楽しかったからだと思います。先ほど言ったように試行錯誤ばかりの日々でしたけど、新しい楽器に触っているような感覚に近かったので、すごく新鮮だったんですよね。加えて、長いこと活動が止まっていた中、ひさしぶりに音楽をやれていることがことのほかうれしかったので、文字通り寝る間も惜しんで熱中することができたんです。発表するには動画とか絵も必要だったんですけど、全部自分で作ったもんなぁ……。

--そんなAyaseさんにぜひお聞きしたいんですけど、ボカロPになるために必要なスキルって、なにかありますか?

Ayase ボカロPになるために必要な切符は、パソコンとボカロのソフトだけです! 僕も、いまの子どもたちにボカロPが人気で、将来なりたい職業ランキングで上位に入っている……というニュースも見ましたけど、でもこれ、見方によってはおかしなものだなとも思っているんです。

--ほうほう。と言いますと?

Ayase ボカロを使って曲を作り、発信した時点で、その人はボカロPです。ですので、“ボカロPになりたい!”と思うのであれば、パソコンとソフトを手に入れた時点でほぼほぼ達成できているわけですね。そういう意味で、ボカロPが職業かと言われるとちょっと違和感を感じるんです。これが、「ボカロをきっかけにメジャーデビューしたい!」なんてことになると話は違いますけどね。どちらにしても、情熱があるならがんばって資金を貯めて、パソコンとソフトを手に入れて楽曲作りに入りましょう! まずは環境を作り、触ってみること。アレコレといじっているうちに、いろいろなことが見えてくると思いますから。

--いまAyaseさんがおっしゃった“ボカロPとは職業なのか?”という疑問、ほかのボカロPの方も口にしていました。確か……すりぃさんだったと思います。

Ayase あ、やっぱり(笑)。僕とすりぃとツミキとsyudouは、集まるといつもそういう話をしていますから(笑)。「ボカロPって、なんだろうな!?」って。

--では、ボカロPになってよかったことがあれば、ぜひ教えてください!

Ayase 身も蓋もないかもしれないですけど、“お金を稼げるようになったこと”ですね。僕、高校に行かずに16歳のころからずっとバイトをしていたんですよ。「いつか絶対に音楽で食えるようになって、バイトなんて全部やめてやる……!」って思いながら。その生活は10年くらい続いたんですけど、バイトとか派遣社員をしながらバンド活動もしていたわけです。でも、ひたすら赤字……。お金を稼ぐどころか、借金しか増えないんです。そんな状況下でボカロPを始めたんですけど、最初の年で過去の借金をすべて返すことができました。

--うおお……!!

Ayase スゴいですよね。だって、バンド時代に死ぬ気で作ったCDなんて、「めちゃくちゃ売れたな!!」って喜んだときですら40枚くらいでしたもん……。それが、初めてボカロPとして“THE VOC@LOiD M@STER”という同人イベントに出たときに、「作り過ぎちゃったかも……」と後悔すらしていた300枚のCDが40分で完売したんです。……って、こんな生々しい話、ここでしちゃって大丈夫ですかね!?(苦笑)

--いえいえ!! ぜひお聞かせください!

Ayase もうひとつ、『ラストリゾート』というボカロの楽曲があるんですけど、完成したときには「ミリオンが狙えるんじゃね!?」っていうくらい手応えを感じていたんです。でも、投稿から1ヵ月経っても1万再生どころか、7000くらいで頭打ちになってしまいました。それを見てショックを受けて、「これはいろいろと考え直さないといけないかも……」と思い始めたところ、たまたまYouTubeの登録者数が1000人を越えたんです。

--はい。

Ayase すると何が起こるのかと言うと、他人のおすすめ動画に僕の楽曲が表示されるようになったんですね。これにより、1ヵ月で7000回転しかしなかった『ラストリゾート』が、たったひと晩で3万回再生に達していました。もう、「何が起こった!?」と驚くばかりで……(笑)。ちょうどそのころ、YOASOBIのプロジェクトが立ち上がって、「AyaseのボカロPとしての知名度を、どうにか上げていきたいよね」と話し始めたタイミングだったので、あまりにもうまくいきすぎだなと……。その3日後くらいに10万再生に達して、「10万のお祝いをしよう!」と話していたら、その日のうちに20万再生に。毎日毎日、アナリティクスを見るのが楽しくて仕方なくて、「やばいことが始まったかも!」と実感しました。お金もそうですけど数字の凄さを体感できたときに「ボカロPになって本当によかった!」と心の底から思ったし、『ラストリゾート』がバーンと数字を伸ばしていたあの朝の、あの瞬間のことは、絶対に一生涯忘れないと思います。涙が出るくらいうれしかったので。

--音楽家にとって、ボカロというものが確実に可能性のひとつになっているんですね。

Ayase はい、そう思います。ボカロを使えば、本当に何でもできますからね。

--僕はとあるアプリを立ち上げのころから追い掛けているんですけど、そのプロデューサーが、「ある日突然のようにランキングを駆け上がって、トップになったときのことは一生忘れられない」って言っていましたけど、いまのAyaseさんの言葉と重なりました。

Ayase ああ、すごくわかります。世界が変わりましたからね、あの瞬間に。

▲一途に音楽を追い掛け続けてきたAyaseさん。飾らない言葉で、なかなか話しづらいことも本音で話してくれた。そのときの、うれしそうな表情が非常に印象的だった。

--では、ボカロPを目指している全国の少年少女に先達としてエールをお願いしたいのですが!

Ayase 「ボカロPになりたい!」ではなく、「ボカロPになって何をやりたいか」という夢に変えたほうがいいなと個人的には思います。まずは環境を整え、実際に試行錯誤しながら触っていく過程で、もしかすると曲を作るのではなく「歌いたい!」という感情が芽生えるかもしれないし、「バンドをやってみたい!」なんて思うかもしれません。ボカロをきっかけに可能性の枝葉が伸びていくはずなので、まずは触って、作ることの楽しさを知って、“自分が何をしたいのか”ということに想いを馳せてほしいと思います。慌てずに、1歩ずつ着実に音楽に触れていってほしいですね。

--ちなみに……やっぱり楽器は触っておいたほうがいいんですかね?

Ayase ぜんぜん触ったことがなくても問題ないと思いますよ。ただ、何かやりたいと思うのであれば、おすすめするのは圧倒的にピアノですね。

--あ、そうなんですね!

Ayase 僕自身、ピアノをずっとやっていたってこともあるんですけど、音感が鍛えられるのと、リズムキープができるようになるので、これは大きなアドバンテージになると感じます。ピアノをちゃんとやっていれば、確実にいいスタートダッシュを切れると思います。

--絶対ではないですけど、やって損はないと。

Ayase はい、おっしゃる通りですね。

--では、最後の質問なんですけど、2周年を迎えてますます人気を高める『プロセカ』について、何かひと言お願いできればなと……!

Ayase そうですね……。いろいろな活動が忙しくなって、なかなかボカロPとしての姿をお見せすることができていない現状を、じつはたいへん申し訳なく思っているんです。でも、ボカロをやめたわけではまったくないし、ボカロという畑がどんどん育っていることをとてもうれしく感じています。これは多分に『プロセカ』のおかげですし、相乗効果が生まれているのも実感しているので、これからもいっしょに大きなカルチャーとなって、いろいろなものを巻き込んでいけたらなと強く思います。ですので今後も、ボカロPのひとりとしてよろしくお願いいたします!

--本日はお忙しい中、たいへんありがとうございました!!

Ayase
1994年4月4日生まれ、山口県出身。2018年12月にVOCALOID楽曲を投稿開始。
ボカロP、YOASOBIのコンポーザーとしての活動に加えさまざまなアーティストへの楽曲提供も手掛ける。

 

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ボカロPインタビュー連載

#1:市瀬るぽさん       

#2:R Sound Designさん

#3:ナユタン星人さん

#4:じんさん

#5:すりぃさん                         

#6:OSTER projectさん

#7:40mPさん

#8:八王子Pさん

#9:いるかアイスさん

#10:DIVELAさん

#11:Ayaseさん

 

 

 

2周年『衣装カタログ』

#1:バーチャル・シンガー編

#2:Leo/need編    

#3:MORE MORE JUMP!編

#4:Vivid BAD SQUAD編

#5:ワンダーランズ×ショウタイム編

#6:25時、ナイトコードで。編

 

1周年ボカロPインタビュー

#1:DECO*27さん

#2:ピノキオピーさん

#3:Mitchie Mさん

#4:Gigaさん

#5:syudouさん

 

 

タイトル概要

プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク

■対応OS:iOS/Android

■App Store URL:https://itunes.apple.com/app/id1489932710

■Google Play URL:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.sega.pjsekai

■配信開始日:配信中(2020年9月30日(水)配信)

■価格:基本無料(アイテム課金あり)

■ジャンル:リズム&アドベンチャー

■メーカー:セガ/ Colorful Palette

■公式Twitter:https://twitter.com/pj_sekai