『甲虫王者ムシキング』のレジェンド・植村比呂志氏とコロコロコミックが強力タッグ! Nintendo Switch用ソフト『カブトクワガタ』の秘密に迫るインタビュー、完全版!!

いま語れる『カブトクワガタ』のすべて!

 子どもたちのバイブル、小学館のコロコロコミックがゲーム開発に乗り出した! 明日、3月15日に発売を迎えるNintendo Switch用ソフト『カブトクワガタ』について、プロデューサーを務める和田誠氏と、ディレクターとして開発を取り仕切る植村比呂志氏に話を聞いた。

 和田さんはじつは、『月刊コロコロコミック』の前編集長。そして植村さんは、2000年代前半に社会現象を巻き起こしたアーケード用ゲーム『甲虫王者ムシキング』の開発者として知られる。

 ゲームの開発とは縁がなさそうなコロコロコミックとレジェンドクリエイターは、どうやって結びついたのか?? そして“新たなブームの創造”を目指して開発されている『カブトクワガタ』とはどういうゲームとなるのか? じっくりと話を聞かせてもらった。

※インタビューは2022年年末に実施したものです。

なぜいま、昆虫なのか?

--今回の取り組み、非常におもしろいと思うので、まずは順を追ってお聞かせください。そもそもの、和田さんと植村さんの出会いから。

和田 僕は小学館に入社してからずっと子ども向けの媒体で仕事をしていたんですが、いまから25年くらい前に『小学一年生』の編集部に配属されたんです。学年誌は、学習をしながらいろいろな知識・教養を身に着けてもらう……というのが雑誌のコンセプトだったのですが、その一環として『ポケモン』や『ベイブレード』を厚く扱うようになったんですね。

--はい。

和田 そして、その延長線上に“昆虫”もあったんですが、調べていくうちに家庭用ゲーム機用のソフトではなく、ショッピングセンターで遊べる昆虫ゲームが子どもたちの間で流行り始めているらしいよ……という噂が編集部に届いたんです。

--おお……! それがまさに……!

和田 はい。セガの『甲虫王者ムシキング』でした。100円を入れると昆虫カードが1枚出てきて、それを使って子どもたちが熱いバトルをくり広げている……と。単純ながらキャッチーなシステムに新しさと“ある種の予感”を感じて、すぐさま仲間がセガに赴いたんです。「記事をやらせてください!」と。

--そして、小学館が誇る学年誌やコロコロコミックで『ムシキング』の記事を扱うように?

植村 じつは我々のほうからも小学館さんにはアタックをしていたんです。小さくてもいいから、どこかで記事にしてもらえませんかと頼み込んだりして。ですので和田さんとは入れ違いなんですけど、『ムシキング』のことが初めてコロコロコミックに載ったのは広告なんです。それも……白黒ページの、2分の1ページ(苦笑)。

和田 滅多に売れない場所の広告だったので、逆に目立ったくらいでしたね(笑)。

植村 ですので、和田さんたちから「学年誌で扱いたい」と打診されたときはうれしかったですよ。我々も、どうにかして子どもたちに訴求していきたいと話していたところでしたので。もう二つ返事で、「ぜひお願いします!」となりました。

--両者にとって、ステキな出会いだったんでしょうね。ちょうど、虫が互いを求めてつがいになるように。

和田植村 うまいこといいますね!!(笑)

--和田さんはその後、コロコロコミックに移られて。

和田 はい。ちょうど『ムシキング』のブームが最高潮のころだったんですけど、コロコロでも引き続きガッチリと組ませてもらうことができて、マンガを連載したり、本誌に付録カードを付けたり、『ムシキング』の増刊号を刊行させてもらったりしていました。

植村 マンガを連載してもらったのは、本当にうれしかったですね。当時は部内に小学館さん用の対応チームがあって、素材出しから記事の内容までいっしょに詰めさせてもらっていたんです。

--同じ出版業界の人間として、当時のコロコロのスピード感はすばらしいと思っていました。

和田 一体感とスピード感は、確かに目を見張るものがあったかもしれませんね。「コレに乗っかろう!」、「ベットしよう!」と決めたモノに対しては、編集部が一丸となって企画を考えていましたから。

--そのころからの縁が、今回のNintendo Switch用ソフト『カブトクワガタ』の開発につながるわけですよね。ぜひ、そこに至る経緯をお聞かせください。

和田 僕の編集者人生は『ムシキング』とともに歩んできたようなものなのですが、その後も要所要所で鍵となるゲームと出会い、人生の転機を迎えるんです。『イナズマイレブン』しかり、『妖怪ウォッチ』しかり。言ってしまえば、ピンポイントで小学生男子に刺さるニッチなゲームたちです。こういったコンテンツを純粋に作れるクリエイターってかなり限られると思うんですけど、彼らと直でやり取りするうちに、不遜ながら芽生えてきた想いがあるんです。……おそらく、僕と同じような経験をした編集者は、皆思うと確信しているのですが。

--ほう……! それは?

和田 「俺も、ゲームを作れるんじゃないか?」。

--!!! わかる……!!

和田 ですよね(笑)。そんなことを思いながらコロコロの編集長をしていて、その役目を終えていまに至ったときに、「つぎは、何をしようかな?」と考えたわけです。

--はい。

和田 同時に、「コロコロの役目って、なんだろう?」と想いを馳せてたどり着いた結論が、「子どもたちを熱狂させるブームを作ることだ!」でした。そしてこれが、先ほど言った“俺もゲームを作れるのでは?”に結び付くんです。

--おお……!! そこで、植村さんにお声掛けを。

和田 最初は、何の気なしに……って感じだったんですけどね。「最近どうですか? 業界の話を聞かせてくださいよ」っていうくらいの。

--連絡をもらったときの、植村さんの状況は?

植村 セガを退社した後もいくつかのゲームメーカーで開発を続けていたんですけど、後年は管理職になって、現場の開発は部下に任せるようになっていました。和田さんから連絡をもらう直前もアプリの運営を2本抱えていたんですけど、実母の介護の問題があってその会社を辞めて、実家のある福島県に帰っていました。そして間もなく母は亡くなり、最後の見送りをしたわけなんですけど、ちょうどそのタイミングで和田さんから連絡が来たんです。

--ということは……完全にフリーの状態で?

植村 その通りです。つぎの予定はまったく決まっていない状態で和田さんに会い、いろいろと話しているうちに、「いっしょにやりましょう!」ということになりました。

--すごいタイミングですね……!

植村 そうなんですよー。母の件がなければ、私はまだ元の会社にいましたからね。それだと間違いなく会社対会社の話になっていたでしょうし、コロコロさんがゲームを作るという話にも簡単に乗ることはできなかったと思います。

※画面はすべて開発中のものを使用しています

--ひさしぶりに会って話したときに、具体的に“虫のゲームを”となったのですか?

和田 植村さんと言えば『ムシキング』ですし、キッズカード市場というものを作った創造神なので、「いっしょにゲームを作るなら、その方向しかない!」と思っていました。ブームのサイクル的にも、近年、虫をテーマにした作品はあまり目立たなかったので、(そろそろ来るのでは……!)と考えていたことも大きいです。

--和田さんて、フットワークが軽いですよね。

植村 僕もそれには舌を巻きました。だってゲーム作りって、予算が必要じゃないですか。

--はい、それも少なくない金額が……。

植村 最初にお会いしたときは予算のことまで考えていなかったと思うんですけど、すぐに社内調整をされて、「予算、獲得できました!」と連絡をもらいましたから。

和田 ゲーム作りにいくらかかるのかなんて、まったく考えずに動き始めたのが逆によかったのかもしれません(笑)。

植村 これ、大手の会社が動くプロジェクトではなく、あくまでもインディーゲームの枠で始めたのが大きかったですね。私も会社を辞めたばかりでしたし、フリーで活動をしている仲間も何人かいたので、和田さんから聞いた予算感でも(彼らに声を掛ければなんとかなりそうだぞ……!)と思えたんです。

--開発体制というところに突っ込みますが、おふたりの役割は?

和田 一応、名称的には僕がプロデューサーになります。そして小学館は出版社ですので、パブリッシャーでありつつ、広報の役割も弊社が担っています。

植村 私は現場の責任者として、全国に散らばってフリーで活動している仲間に声を掛けて、開発体制を整えることから仕事を始めました。それを元にもう少し詳細な予算策定を行い、和田さんに諮って実作業を進めている……と。

--……ん? 全国に散らばって……ということは、皆さんまさか、リモートでゲーム作りを行っているんですか?

植村 そうなんです! ここが、今回のゲーム作りにおけるいちばんのポイントかもしれませんね!

--全国に散らばっている昔の仲間に声を掛けていっしょに……って、めちゃくちゃおもしろいですね!

植村 ゲーム開発って昔から、どこかの組織に所属していっしょの空間にいないとできないもの……っていう先入観があったと思うんです。でもいまの時代、リモートで仕事をすることが当たり前になっていますし、実際に地方にいながらすばらしいインディーゲームを開発されている方もたくさんおられるので、我々もそれぞれの生活空間をキープしつつ、すべてをリモートでこなしていこうとなりました。

--へーーー!! 画期的ですね!

植村 とくに今回は対応ハードがNintendo Switchで、開発のハードルが下がっていることも助けになりました。現在……10人ほどの開発者で制作を進めています。

--かつて植村さんが作っていたゲームと比べると、だいぶ規模が小さいんじゃないですか?

植村 それが、『ムシキング』の立ち上げのころは7人しかいなかったので、当時と比べれば多いくらいです(笑)。

--あ! そうなんですか!

植村 家庭用ゲーム機のソフトとはいえ、『ムシキング』を作った2003年あたりと比べるとテクスチャーの容量とか、比べ物にならないくらいリッチ化しているんですよね。しかも今回はRPGですのでバトルだけじゃなく、育成、クエスト、ストーリー……など、多方面にわたって作らなければいけないんです。そういう意味では、かつて作ったゲームと比べるて倍くらいの人数は必要になってくるんです。

--確かに、いまから20年も前ですもんね。『ムシキング』も。

植村 と言ってもインディータイトルですから、同じNintendo Switch用ソフトでも、規模の大きいところと比べれば10分の1程度の開発人数だと思いますけどねー。

--そんな、小規模の開発体制ながら着々と制作が進行している背景には、小学館が出版社として協力していることも大きいんですよね。

和田 はい、完全に二人三脚で開発を行っている感じです。しかも、僕は長年「ゲームって……実際にどうやって作っているんだろう?」という疑問を持っていたんですけど、これって多くの人が共感してくれるポイントだと思っているんです。ですので今回は、マンガや記事、動画を使って、ゲーム開発の現場をとことんお見せできればと考えています。そうやっていろいろなコンテンツに展開できるのも小学館の強みだと思っていますから。ゲームクリエイターって、コロコロ読者の少年少女にとっては憧れの職業なので、より深く知ってもらえるチャンスでもあると考えています。

植村 私も和田さんといっしょで、今回の開発現場の様子を発信できることは非常に意義深いことだと思っているんです。以前は、「ゲームクリエイターになるにはどうすればいいですか?」と問われても、「メーカーや開発会社に就職してサラリーマンとしてやるしかないです」としか答えられませんでした。そしてそれはイコール、地方在住の子どもたちにとてつもないハードルになってしまうわけです。そもそも、都心と比べて地方には、ゲームメーカーも開発会社も少ないですから。自分のライフスタイルの都合もあって、ゲームメーカーまで通うのが不可能……という人も多いでしょう。

--はい。

植村 ひと昔前まで、そういう方がどうしていたかと言うと、たいていは“あきらめていた”んですよね。でも、いま我々は全国に散らばる仲間とネットを通じてつながって、ゲーム作りを行っています。地方や、もっと言えば海外にいたとしてもハンデにならず、ゲームクリエイターとして活動できる証左になると思っています。

--どこにいてもゲームは作れるよ……って、すごくメッセージ性が強くていいですね!

植村 さすがにトリプルAのタイトルだとそうはいかないと思いますけど、我々はインディーですから。私と同じように、“ゲームは遊ぶよりも作るほうが好き”という人はたくさんいると思うんです。今回の私たちの挑戦でそんな人たちの敷居を下げることができれば、新たな才能の発掘にもつながるんじゃないかなと。

--いまは大手の出版社が続々と、ゲーム開発に乗り出しています。そんな中、小学館の強みはどこになるんですか?

和田 まずは……! 自虐で言うわけではないんですけど、僕らは他の出版社さんのプロジェクトと比べると圧倒的に予算が少ないです!!(笑)

--……笑っていいのかわかりませんが、はい(笑)。

和田 決して悪い意味で言っているわけではありません。子どもたちにとっては、“高予算ゲーム=面白いゲーム”ではないですから。今回の予算の中で、子どもたちを熱狂させるゲームを作ることは可能だと思っています。

--うんうん……!

和田 改めていちばんの強味は何かというと、ゲームクリエーターと編集部の距離の近さです。社内の他部署はいっさい挟まず、コロコロの蓄積された経験やノウハウと、植村チームのクリエイティブがダイレクトに結びついてゲーム作っていくことで、昨今出版社の編集部が漫画制作などで社会的に広く認められている、「作品制作力」や「キャラクター制作力」を直接ゲーム制作に活かせます。編集部と植村さんで作った原作がそのままゲームになる、これが他社にはないいちばんの強みだと思います。

--お話を聞いていると、漫画家と編集者の関係みたいですね。

和田 !!! いや、まさにその通りで……!

植村 言い得て妙ですね……! 本当に、漫画家と編集者の関係ですよ。私は正直、もうゲーム作りは引退してもいいかな……とも考えていたんです。でも和田さんから「もう一度、虫のゲームを作りましょう!」と言われて決意するわけですけど、そのときのやり取りは、編集者に「もう1回、虫のマンガを描こうよ!」と言われた漫画家みたいなものだったと思います(笑)。

和田 いかにして作者にクリエイティビティを発揮してもらうのか……という部分において、編集者時代とまったく変わらない気持ちで臨めていますから。

--でも植村さん、こういった環境で仕事をしていると、昔を思い出すんじゃないですか? 『ムシキング』を作っていた当時を。

植村 いや本当に……! だっていま、毎日のように仕様書を書いていますからね。プログラマーと打ち合わせをして、そのフィードバックをExcelのシートに打ち込んで他のメンバーにお知らせして……(笑)。仕様書を書くのって本当に久しぶりだったんです。後年は、若い部下たちに任せていましたからね。でも、この仕事はゲーム企画の本質なので、昔を思い出しながら楽しく作業をしています。

--小規模な体制は目が行き届きやすいですけど、「なかなかそこまで手が回らない……」とジレンマを感じることもあるんじゃないですか? たとえば、プロモーション活動とか。

和田 そこで、今日同席してもらった小林のチームにがんばってもらっているんです。

--ぜひ、具体的にお聞かせください。

和田 僕はコロコロコミックの前編集長ですけど、その権威をかざして、「コロコロの次号で『カブトクワガタ』の紹介を10ページくらいでやってくれ」と言ったところで……実現しないじゃないですか。

--わかります(笑)。僕も、自分の単行本が出たときに週刊ファミ通で紹介してもらおうと思っても、自社広告の枠を1ページもらうのが精一杯でしたもん。副編集長とか、編集長をやっていたのに(苦笑)。

和田 ですよね(笑)。でもそこで、いま小林が僕以上にのめり込んで『カブトクワガタ』に向き合ってくれていて、コロコロの編集会議の場でも強烈に推してくれているんです。いかにこのゲームがおもしろいか、誌面で扱う価値があるのか……ということをプレゼンしてくれて、ページを確保してくれたりしているんです。

--それはすばらしいなぁ。

小林 僕は生え抜きのコロコロ編集者ではないですし、もともとデジタル領域のキャリアのほうが長い人間なんです。ですので、自分が関わっている作品を推すことに怯む必要はないよな……と考えているんです。とはいえ、ただ「ページを取ってください!」と強引にねじ込もうとするのはナンセンスですし、僕のやりようを後輩も、編集長も見ているので、しっかりと準備をして臨むようにしています。ページを取ることは手段に過ぎず、大事なのは“そこで何をやるか”ですから。

--うんうん。

小林 コロコロコミックって、すごく独特なんですよ。その出自が『小学一年生』という学年誌にあることも影響していると思うんですけど、とにかく子どもたちを熱狂させることを第一に考えているわけです。それを考慮して、青臭くてもいいから『カブトクワガタ』のすばらしさを躊躇なく上層部に伝えるようにしています。そういったことを否定する風潮は、コロコロにはいっさいありませんからね。

和田 僕はちょっと姑息なので、「編集会議でこういう言いかたをすれば、きっと多めにページを取ってくれると思うよ」なんてことを吹き込むんですけど、小林はいっさいなびきませんからね(笑)。自分なりのポリシーにのっとって会議で辛抱強く主張し、それが徐々に実を結び始めています。

--そういった社内広報をするとともに、小林さんのチームでプロモーション用の素材作りも担当されているんですよね?

小林 そうですね。『カブトクワガタ』の開発チームから生の画面素材をもらって、それをプロモーション用の素材としてレンダリングし直したり、YouTubeなどで流す宣伝動画の制作も私のチームで請け負っています。

--いや、じつはその点がすばらしいなぁと思っていて。先ほど現場を見せてもらいましたけど、出版社の強みを見事に活かしているなと感じました。

和田 限られた予算の中で、どう工夫すれば『カブトクワガタ』のおもしろさを伝えられるのか……ということを、小林チームも開発陣の一員という誇りをもってやってくれていると思います。同じ社内の人間ですが、それが本当にありがたいんですよね。

植村 小林さんのチームがやられていることを、外部のマーケティング会社に投げたらものすごいお金がかかると思うんです。Webも、マンガも、動画もTwitterもすべて見てくれていますから……!

--小林さん、発売が近くなるとさらにプロモーションチームがたいへんになると思いますけど……?

小林 それでヒットしてくれるなら、私の苦労なんてどうってことないです。全力で力を注いでいこうと思っています。

『カブトクワガタ』はどんなゲーム?

--では、『カブトクワガタ』がどのようなゲームになるのか、簡単に教えていただけますか?

和田 昆虫……とくに甲虫と呼ばれるカブトムシやクワガタムシは、小学生の男の子に刺さる普遍的な人気テーマだと思っています。そして、『ムシキング』のブームを小学生として経験した子たちが、いま25歳くらいになっているんですね。

--はい。

和田 もっとも発信力と購買力がある世代です。それを踏まえて、第1ターゲットは小学生男子ですけど、同じくらい重きを置いているのは“かつてのファン”の大人たちです。

--そして対応ハードはNintendo Switchで、ゲームジャンルはRPGになると。

植村 私が現役でゲームを作っていた時代と比べて、いまの家庭用ゲーム機の表現力は圧倒的です。それを活かしたRPGにしつつ、しっかりと育成要素を入れようと最初から話していました。というのも『カブトクワガタ』にはメスの個体も登場するんです。

--と言うことは……。

植村 交尾をすることで、新しい虫が誕生します。自然界でもそうなんですけど、大きいメスから大きくて強い個体が生まれるんですね。ですのでゲームの目的としては、ボスを倒しながらステージを進め、より強い虫を見つけて交配をし、さらなる強い個体を……というサイクルになります。

--強い虫を産ませるには、大きいメスという以外にもいろいろな要素がからんでくるんですよね?

植村 もちろんです。虫を育てることに関する研究はかなり進んでいて、我々もあらゆる書籍や論文を読んだんですけど、そこからかなりマニアックでおもしろいメソッドを抽出してゲームに反映させているので、非常におもしろい育成ができると思いますよ。たとえば……“大きくて強い虫を産めるのは、大きなメスだけ”も、そのひとつです。。

--リアル世界の虫マニアは、それこそ1ミリの違いにすらこだわる人たちですよね。

植村 このゲームでも、それは大事にしています。ゲームをそれなりに遊んだ後に、「いちばん大きい虫を育てるのは俺だ!」という、育成の部分にモチベーションを持っていってもらいたいので。ぜひまわりの友だちや、SNSを使って自慢してほしいと思います。

--ゲームの柱はRPGと育成、そしてバトル?

植村 そうですね。加えて、自分の図鑑を埋めていくコレクター的な要素も大きいと思います。どんな虫がレアで、所有欲を満たしてくれるのか……という知識は、『ムシキング』の時代に培ったものが使えますから。

和田 加えて、小学館から子どもに大人気の『図鑑NEO』というシリーズが出版されているんですけど、その編集部に協力を仰いで、昆虫図鑑に載っているカブトムシやクワガタの情報をゲームにそのまま反映させています。

--なるほど!! それも、小学館という出版社がパブリッシャーを務める強みですね!

植村 ゲーム中の図鑑に『図鑑NEO』のマークがついていますから。本当にありがたいです。……ところで大塚さん、“ヘルクレスリッキーブルー”ってご存知ですか?

--……ものすごく初めての単語で戸惑っています(苦笑)。

植村 大人気のヘルクレスオオカブトの中に、稀に青い色を帯びた亜種が生まれるんです。通常種の黄色い部分が、水色になっているんですね。

--へーーー!! そういうレア種も……。

植村 はい。超稀にですが、『カブトクワガタ』でも見つけることができます。

--なるほどーーー!! いやしかし、これは本当に楽しみですね。お話を聞いていると、子どもたちがNintendo Switchを持ち寄って「俺、こんなデカいクワガタ見つけたぜ! しかも亜種!!」なんて自慢し合っている姿が容易に想像できますもん。

植村 はい、我々もそれを狙っているんです。そういった部分をコロコロさんに盛り上げてもらいたいなと。

--気が早いですけど、発売後のプランも考えていらっしゃるんですか?

和田 『カブトクワガタ』はダウンロード専売での展開になりますが、ひと通り遊んでくれた方たちのために、ダウンロードコンテンツ(DLC)の配信も視野に入っています。

--おお! それはどのような……?

和田 虫やマップの追加と、その後は……ローカル対戦を入れたいなと。

--いいですね!!

和田 小学館は毎年“次世代ワールドホビーフェア”という大規模なイベントを展開していますので、そのステージで『カブトクワガタ』をやり込んだ、腕に覚えのある少年少女たちに戦ってもらいたいな、と!

--その光景が、目に浮かぶようだなぁ……!

和田 そこまで作って初めて“コロコロコミックのゲーム”と言えるんじゃないかと考えているんです。やっぱり、大会をやっていきたいですねー。

植村 『ムシキング』のときも、そういった大会でたくさんの笑顔と涙を見てきました。あの熱狂の世界をもう一度作れたら、最高ですね。

和田 そういう意味で、DLCまで見越して開発を進めています。

植村 人気のある甲虫って本当にたくさんいるので、発売時にすべてを盛り込むことができないんですよね。ですのでそこは無理せず、DLC用に温存している感じです。

和田 また、2023年はなんとなく、『カブトクワガタ』以外にも虫をテーマにした作品がいくつか出てくる予感がしています。そういったものといま風にコラボをして、互いの認知度を高めていければ、気付いたときには巨大なうねりになっていると思うんです。『ムシキング』のときのような、日本全体を巻き込んだ“昆虫ブーム”を起こすことも不可能じゃないと考えています。虫は本当に、老若男女を問わない普遍的なコンテンツですから。

--発売を楽しみにしております! ありがとうございました!

『カブトクワガタ』公式ツイッター:
https://twitter.com/kabukuwa_info

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