【プロセカ】ボカロPに直撃! “水野あつ”さんが語る“ワンダショ”と、オリジナル楽曲『星空オーケストラ』について!【ボカロPインタビュー企画 #49】

水野あつさんの曲作りに迫る!

 2020年9月のサービスイン以来、コロコロオンラインがひたすら追い掛け続けているセガ×Colorful PaletteのiOS/Android向けアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。

 リリース当初からこのコンテンツを追いかけてきたコロコロオンラインプロセカ班は、2023年10月に『プロセカ』3周年を記念した大特集を実施するなど、担当からほとばしる圧倒的な“プロセカ愛”をカタチにし続けてきた。 

『プロセカ』3周年記念特集は下記の画像をクリック!!
 

 そんなコロコロオンラインプロセカ班がとくに情熱を注いで追っているのが、このゲームの根幹でもある楽曲……そして、それを制作されている“ボカロP”と呼ばれる“才能たち”であります!!

 “子どもが将来なりたい職業ランキング”において、ゲームクリエイターやユーチューバーらと並んでボカロPが上位にランクインし、コロコロの読者層との親和性もめちゃくちゃ高いということで、前述のプロセカ1周年特集の際にボカロ界のビッグネームにつぎつぎとインタビューを敢行!! その内容の濃さは業界内外に衝撃を与え、このたび……不定期連で、さらに多くのボカロPの皆様にご登場いただき、ナマの声をお届けできることになったのです!!

 『プロセカ』はゲーム内容はもちろん、楽曲のすばらしさが高く評価されて現在の人気を確立したと言っても過言ではない。それらを生み出したボカロPたちの考えかた、作品への向き合いかたを掘り下げたこのインタビュー連載を読まれることで、ゲームを遊ぶだけでは知りえない情熱や、楽曲に対する想いを知ることができるはずだ。その結果……さらに登場キャラやユニット、『プロセカ』そのもののことが好きになること請け合い!!

 そしてインタビューの後半では、“いかにしてボカロPになったのか?”という、将来この道に進みたいと思っている読者の皆様の道しるべになるような質問もぶつけているので、とにかくあらゆる人たちに読んでいただきたいなと!!

 さて今回ご登場いただくのは、“ワンダーランズ×ショウタイム”(ワンダショ)にオリジナル楽曲『星空オーケストラ』を提供された“水野あつ”さんだ。

 『星空オーケストラ』が書き下ろされたイベントストーリー“夢の途中、輝く星たちへ”は、演技の勉強のために演劇のワークショップに通うと宣言する司を見て、えむの中に悲しみが渦巻いてくる……という物語。「がんばってほしい」と思いながらも、ワンダショの仲間と共有する時間が減ることを受けて、彼女は別れのときが近づいてきていることを実感するのであった――。

 天真爛漫なえむが覚えた、抗いようのない別れの予感。キラキラの笑顔に包まれていたワンダショに、どんな未来が待ち構えているのか……? そんな、彼らの複雑な心境を、水野あつさんはどのように楽曲に反映させたのかを、じっくりとお聞きしたぞ!

※インタビューは感染対策を徹底して行っております。

音楽が好きだから

――まずはたいへん恐縮なのですが、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。

水野あつ はい。水野あつと申します。2019年からボカロP兼シンガーソングライターとして活動を開始し、おもにYouT ubeやインスタグラム、TikTokXなどのSNSを中心に発信を行っています。どうぞよろしくお願いいたします。

――ありがとうございます! そんな水野さんは今回、『プロセカ』にオリジナル楽曲の『星空オーケストラ』を提供されましたが、この依頼が来たとき、率直にどのように思われましたか?

水野あつ ボカロPの誰もが感じていることだと思うんですが、『プロセカ』に書き下ろし楽曲が収録されることって、大きな夢のひとつなんです。ですので僕もお話をいただいたときに、「これでやっと、ボカロPを名乗れる!」という気持ちになりました。同時に、ゲームなどのコンテンツに携わることが初めてだったので貴重な機会をいただけたと思いましたし、期待であふれてきたことをよく覚えています。

――その「『プロセカ』に声を掛けられて初めて、ボカロPとして認められた気がする」という感想、本当に多くのボカロPが口にされますね。

水野あつ 本当に、それくらい大きな存在なんです。

――水野さんも『プロセカ』をプレイされているのを、SNSなどでお見掛けしましたが。

水野あつ 僕の場合、書き下ろしのお話をいただくまでは未プレイだったんですが、これを機にストーリーをしっかり読もうと思ってプレイを始めました。でもリズムゲームを遊ぶのは、『星空オーケストラ』がリリースされるまでは我慢していたんです。せっかくなのでリリースと同時に、リスナーのみんなと「よーいドン!」で始めようと思ったので、一生懸命堪えていました(笑)。

――なんていう気の遣いかた!!

水野あつ あははは。

――そして遊ばれたリズムゲームには、すぐに慣れましたか?

水野あつ 生配信とかでもプレイしているんですけど、最初はもう……ぜんッッッぜんできませんでした!! でもSNSを見ると、ファンの小学生とかが「簡単にフルコンできた」なんてつぶやいて愕然として……。そこで、「配信しているのに、これはマズい!」と思って、めちゃくちゃ特訓したんです(笑)。

――小学生とかはとくに、みなぎる動体視力でとんでもないプレイをしたりしますもんね。

水野あつ そうなんです!! まったく敵いません! ……それでも『プロセカ』は、リズムゲームの中でもインターフェースがわかりやすいので、取っ付きやすかったです。コツを覚えるのも、それほど時間は掛からなかったと思います。

※MV画面はバーチャル・シンガーver.のものです。

――そんな『プロセカ』に楽曲提供をされたわけですけど、ユニットはワンダショでした。彼らを初めて見たときは、どんな印象を受けましたか?

水野あつ 元気いっぱいで個性あふれるメンバーがそろったユニット。……ではあるんですけど、ただ天真爛漫なだけじゃなく、たびたび困難、苦悩、挫折に直面して、それでも「なんとかみんなで乗り越えていこう」と前向きに挑戦してきた結果、いまのワンダショがあると思うんです。そういう姿勢に、単純に惹かれました。と同時に、僕の作る曲にもすごく合っているとも思ったんですよね。

――確かにワンダショは、華やかな雰囲気を纏いながらも、じつはそれぞれが重い背景を持っていたりしますもんね。

水野あつ そうなんです。4人とも、根が優しくてマジメじゃないですか。そういうところも、勝手にですけど「自分と似てるかも」って思うんです。

――ほほー!

水野あつ 僕のボカロ曲って、代表曲の『生きる』や『信じることが怖い』もそうなんですけど、ピアノで繊細な音を奏でるバラードチックなものが多いんですね。でも、シンガーソングライターとしてデビューした2019年当時は、明るめの曲もたくさんあったんです。そのときに、「ただ明るいだけで終わらせたくない」と思って、曲調は軽快ながらも歌詞でセンチメンタルなところを織り込んでいく……ということを、楽曲作りのモットーのひとつにしました。ですので、ワンダショのメンバーが持つ明るさと葛藤の二面性に、自分を重ね合わせたんだと思います。

――『星空オーケストラ』が書き下ろされたイベントストーリー“夢の途中、輝く星たちへ”は、その二面性がとくに際立っていますよね。

水野あつ おっしゃる通りです! ですので資料を読んだときに、「自分なら、真に迫った曲を作れるかも」という、ある種の自信が湧いてきたんですよね。でも僕、やっぱり『生きる』の印象が強いのか、ニーゴ寄りの人……というイメージを持たれることがすごく多かったんです。ですのでこのイベントストーリーが発表されたときも、「え! ワンダショで水野あつなの!?」という驚きの声もけっこうあったんですけど、実際に『星空オーケストラ』が実装されてからは、「これはまさしく水野あつだ」といろいろな人に言ってもらえました。それは、すごくうれしかったですね。

▲イベント『夢の途中、輝く星たちへ』の書き下ろし楽曲としてリリースされた。

――そこでぜひ、『星空オーケストラ』を作られたときのテーマをお聞きしたいのですが。

水野あつ みんなで集まって明るく前向きに進んでいきたい……と思っても、何かを極めようとした瞬間に、それぞれの進路とか、別れまで見えてくることがあります。そういう二面性……いわゆるギャップを曲の中で表現したいなと、強く意識しました。『星空オーケストラ』は曲調はすごく明るく、かなりポップで、リズムに乗れる曲に聴こえると思うんです。でもひとたび歌詞を見ていただくと、意外なほどセンチメンタルな方向に振っているのがわかると思います。

――そう……! じつは、切ないんですよね……!

水野あつ そうですね。そういう、音と詞のギャップを作りたいと思っていました。それはやはり、ストーリーや資料を読み込んでいったときに、「自分の表現したいことはこれだな」という方向性が見えて、そちらに舵を切った感じになります。

――なるほどーーー。

水野あつ 『星空オーケストラ』は、最初に歌詞を書いたんです。自分が思うことをすべて書き出してから整理していったんですけど、当初はえむちゃんに感情移入しすぎてしまって、かなり悲観的な感じになっていたと思います。

――あ、そうなんですね!

水野あつ はい。でも制作を進めていくうちに、「悲痛なだけで終わらせるわけにはいかないぞ」と思って、最後は明るく前向きにまとめよう……と考えたことを覚えています。

――あーーー! それで最後、すごく印象的な「歩き出そう」という歌詞で終わっているのか!

水野あつ あ、まさにその通りです……! 僕、その曲ひとつだけで完結するよりも、その先を感じさせる“余韻”みたいなものを大切にしているんです。『生きる』という楽曲も「明日から」で終わったりとか。「このあと、何が起こるんだろう」という余韻を、リスナーの方に楽しんでほしいなと思って、あえてそういう作りにしてあります。

――『星空オーケストラ』はまさしくそういう楽曲になっていて、歌詞はすごく切なく、イベントストーリーに寄り添っているんですよね。

水野あつ ありがとうございます。

――相当、資料を読み込まれたんだろうな……って、聴きながら思いました。えむちゃんに感情移入しすぎた……というのも、とてもよくわかります。

水野あつ そうなんです! えむちゃんといっしょに、心を痛めましたもん。でも、基本的にワンダショって元気溌剌で、曲もそういう方向性のものが多いじゃないですか。だから、すごく考えました。いまのこの気持ちを、どういうふうに“ワンダショの曲として”落とし込めばいいんだろう……って。作品としての落としどころを、自分の中で葛藤しながら決めていったんですよね。

――ワンダショってずっと明るく楽しい雰囲気でしたけど、この直前のイベントストーリーあたりから「もしかして、別れもあるの……?」ということを匂わせ始めているんですよね。そういう意味でも、『星空オーケストラ』はこの時期のワンダショにがっちりとハマっていると思いました。

水野あつ いやあ、うれしいです。YouTubeのコメントとかSNSを見ても、同じように「ストーリーにぴったり」とか「この歌詞がめっちゃ好き!」なんて言ってもらえていうのを見て、すごくうれしかったんですよね。

 

――歌詞のお話が出たところで、ぜひお聞きしたいです。水野さんご自身が、とくにお気に入りのフレーズはどのあたりですか?

水野あつ 全部好きなので、悩みますね~~~。厳選した歌詞を当てはめながら、「ここは違う……!」、「べつのところに」なんていう作業をくり返して作ったので、すべての歌詞に差がない感じです。……でも、先ほどおっしゃってくれた「歩き出そう」は、僕もすごく好きです。あと……Aメロにある情景描写の歌詞も気に入っていますね。えむちゃんらしい、優しさと温かさを感じさせつつ、不意に脳裏をよぎる悲しさも表現したというか。『星空オーケストラ』はリズムがタンタンタンタン……と小気味よく進んでいく曲ですけど、このあたりはちょっとセリフ風な、ミュージカルっぽい感じに作れたかなと思います。

――そう、ミュージカルの雰囲気を感じるんですよね、この曲って。

水野あつ ありがとうございます。それと、僕の作る歌詞は起承転結というか、リスナーの皆さんがストーリーを思い浮かべられるように意識して書いているので、そういう意味でも上から下まで、すべてのフレーズがお気に入りです。

――いやしかし、先ほど「最初に歌詞を書いた」とおっしゃったのを聞いて驚きました。これまで取材してきた多くのボカロPが、まずは曲から……と話されていたので。

水野あつ そうですよね。とくにボカロPの場合は、曲を先行して作られる方が多いと思います。僕は、作る楽曲の構成要素の中で歌詞の比率がすごく大きいボカロPだと自覚していて、ゆえに歌詞先行になるのかなと。ですので、歌詞を活かしたいがためにメロディーのほうを崩すという、“歌詞優先”をすることも多いですし。

――へーーーー!!

水野あつ 加えて、サラリと読める歌詞をすごく意識しています。僕はあまり散文的な歌詞は書かなくて、パッと見たときに物語がスッと入ってくるようなものを目指しているんです。さまざまな解釈ができる歌詞よりも、聴いた方に同じ情景が浮かぶような作品を作りたいなって思います。そういった点を考えても、歌詞先行で作っていくことに意味があるなと感じているんです。

――水野さん、昔から文学少年だったのですか?

水野あつ それが……ぜんぜんそんなことないんです! おそらく、一般の方よりも活字モノは読んでいないと思います。

――そうなんですか!? 意外すぎる!

水野あつ 皆さん、インプットのために小説を始めとした書籍を読むと言いますけど、僕はまったく、そういうのを通ってこなかったんです……! それでも、「水野あつの曲は歌詞がいい」と評価されることが多いので、(なぜなんだろう?)と自分で考えてみたんですね。

――これは興味深い……。

水野あつ 僕、自己反芻がすごく多いんです。(今日はこんなことがあって、あんなことをやったんだよな。それでこのように考えて……)みたいなことを、つねに頭の中でグルグルと考えているんです。そうすることで頭の中で文章が整理されて、歌詞としてアウトプットできるのかな、と。そしてもうひとつ、僕は人と話をするのが大好きで、初対面の方ともすぐに打ち解けておしゃべりしたりするんです。初めて会う方からは必ず多くの刺激や新しい発見を得たりできるので、対話をしながらいろいろな価値観を育んでいるんだと思います。ですので今日のようなインタビューも、すごくありがたいんです。

――いやあ、これまでにはない、斬新な視点の回答をいただけたと思います。

水野あつ いま話していて思いましたけど、僕の書く歌詞ってどちらかと言うと文章的で、詞的ではないのかもしれません。話し言葉……というか、対話に近い感覚なので、聴かれる方たちにも直感的に響くのかなと思いました。

――文章としてもキレイな歌詞は、そういう作りかたをされているからこそなんですね……。すごくよくわかりました。

水野あつ 僕も、腑に落ちました(笑)。ありがとうございます! 新たな知見が得られました。

※MV画面はバーチャル・シンガーver.のものです。

――よかったです(笑)。では、いまの質問に付随して、ぜひ『星空オーケストラ』の聴きどころを教えてください。

水野あつ 第一に、何度も言う通り楽曲としてのギャップです。ひとつの曲でいろいろな味がすると思うので、ぜひそれを味わってほしいなと思います。切ないところもあるけど、でも最後は前向きに1歩を踏み出していくという部分を感じ取ってもらえたらうれしいです。もうひとつが、“ワンダショらしさ”でしょうか。テーマパークみたいなワクワク感を曲で伝えたいと思って、たとえばCメロで3拍子を入れてみたり、音もブラスを入れてポップな雰囲気にしてみたり……。ミュージカルを見ているかのような気分に浸ってもらえたら、作り手冥利に尽きますね。

――でも、それだけ盛り込んで作られたとなると、制作日数がかなりのものになったのではないかと思うのですが、いかがですか?

水野あつ すごくかかりました!!(笑)

――あーーー、やっぱりそうなんですね。

水野あつ いやもう、何度も何度も、書いては直しのくり返しで……。じつは最初の締切を後ろ倒しにしてもらったんです。何とか間に合わせて納品はしたんですけどどうしても納得がいかない部分があって、「直させてもらっていいでしょうか!?」とお願いして、手を加えさせてもらったという……! 『星空オーケストラ』は自分の中でもとても大きな存在になっていましたし、作り込めば作り込むほど思い入れが強くなっていったので、中途半端なところで手放してしまうことが許せなかったんです。発表から何年経っても聴かれ続けている曲って、やっぱりすばらしいものばかりじゃないですか。『星空オーケストラ』もそういう曲にしたい……と思って、細部の詰めとか、ちょっとした調整とかとか、ギリギリまで粘ってやらせてもらいました。

――そうだったんですね……!

水野あつ 『プロセカ』の制作チームには最後までお付き合いいただき、助けてもらったので、本当に感謝しているんです。けっきょくなんだかんだで完成まで……1年くらいかかりましたから。

――1年!!!

水野あつ はい。表現したいことが、たくさんあったので……。加えて、『星空オーケストラ』は可能な限り華々しいポップスにしたかったんですね。いまのボカロPでそこまで強烈なポップスを書いている人ってほとんどいないので、僕もそれほど精通しているわけではないんですが、納得いくまでがんばりたいと思いました。

――難産だったんですねえ……。

水野あつ いやあ、本当に……! ボーカルやパートの振り分けも僕にとっては新しいチャレンジでしたし、そもそもふだんは自分で歌うことが多いから、楽曲提供の経験も浅かったんですよね。『星空オーケストラ』の制作中は、四六時中このことばかり考えていたと思います。でもたいへんではありましたけど……いま思えば、青春の1ページみたいです。いい思い出ですね。

――そんな労作がゲームに実装されたのを見て、どう思われましたか?

水野あつ 感動しました。イベント画面で『星空オーケストラ』のインストが流れるわけですけど、そこでもう、「わあああああ!!」です(笑)。自分の曲がゲームに収録される経験もなかったので、いままでがんばってきてよかった……って心から思いました。同時に、「この曲に1年も向き合ってきたのは間違いじゃなかった!」と確信できて、あの苦労が幸せに変わったんですよね。

――実装後にいろいろな反響があったと思いますけど、印象に残っていることはありますか?

水野あつ これ、ちょっと主旨と違う回答かもしれないんですけど、先ほどファンといっしょにリズムゲームを始める……と話しましたけど、実際に配信をしながら進めたんですよ。でもコメントで、「ぜんぜんうまくないじゃん!」とか、「私のほうができるよ!」なんて言われまして(苦笑)。

――あーーー(笑)。

水野あつ それが悔しくて毎日毎日練習を重ねて、最終的にはEXPERTでフルコンを取ることができました。もうそのときは、視聴者の人と喜びを分かち合いまくりましたよ(笑)。

――このインタビューの前に『星空オーケストラ』へのコメントをいろいろと拾ってみたんですけど、やっぱり「ひとつのショーを見た後のような満足感がある」という旨のものが目立つなと思いました。

水野あつ それはうれしいですね! まさに、そう思ってもらいたいな……と願いながら作っていたので。

――ではここから、将来の夢として「ボカロPになりたい!」と思っている人たちのために用意した質問にお答え願えればなと……! まずは……水野あつさんが、ボカロPになられたきっかけを教えてください!

水野あつ ……ちょっと長くなると思うのですが、よろしいですか?

――はい、もちろんです!

水野あつ では音楽を始めたきっかけからお話しますと、小学4年生のときにクラシックピアノを習い始めるんです。すぐにピアノを弾くことが好きになって、コンクールに出たりとか、わりと精力的に活動していたんですね。

――はい。

水野あつ でも、じつはその前から家にピアノがあって、確か幼稚園のころに母親を驚かそうと思って、『雛祭り』の曲を耳コピでこっそり練習したんです。(これを聴いたら、きっとお母さんは驚くぞ)という、ドッキリを仕掛けるような気分で。それでどうにか弾けるようになって、雛祭り当日に家族の前で弾いて驚かせた……というのが、僕の音楽の原体験になります。そして、4年生になってキチンとレッスンに通うようになり、どっぷりとのめり込みました。

――すごいなあ。

水野あつ 最初は、ピアニストになりたいと思ったんです。でもやっていくうちに、自分の中に違和感が芽生え始めて。コンクールでも、「水野君は表現力は凄いのに、指が回ってないね」と毎回のように言われて、楽しいのにスキルが追いつかないというジレンマに陥るんです。あと、楽譜を見て(えー……)と思い、先生に、「この音じゃ絶対に弾きたくないです。こっちがいいです」って進言したりとか(苦笑)。そういう意味では、けっこうな問題児だったんです。

――子どもながらに、こだわりが強かったんですね。

水野あつ そうなんです。そしてそのうちに、ピアニストというプレイヤーじゃなくて、自分でゼロから曲を作るほうが向いているのではと思い始めて、小学5年生のころから作曲を始めるんです。

――ええええ!! 早熟!!

水野あつ その流れで高校に入るまでピアノ曲を作っていたんですけど、ある日友だちから、「水野、ピアノ弾けるんだったら、これを弾いてくれない? 音楽の授業でやりたいから」って、とある曲を教えられました。それが、DECO*27さんの『モザイクロール』だったんです。

――!!! ついにボカロと出会うんですね……!

水野あつ はい。そのときに初めてボーカロイドの存在を知りました。でも、最初は正直違和感しかなくて。人が歌っているわけでもないのに、なんでこんなに人気なんだろう……と不思議な気持ちだったんですけど、聴き込んでいくうちに……「これは、スゴい曲だぞ」と……! そこからいろいろ調べ始めて、ニコニコ動画に無数にボカロ曲があることを知ってのめり込んでいくんです。2007年から10年くらいのボカロ曲って、ホントに尖ったものが多かったので、毎日が刺激の連続でした。

――わかるーーー!

水野あつ そしてそのときまで、ミュージシャンは事務所に所属してテレビやラジオで活躍している人だ……という先入観があったんですけど、ニコニコ動画で活動しているボカロPはまったく違うということを知ります。特殊な枠組みの中で、ふだんは会社員だったり、学生だったりする人が、本当に自分が作りたい曲を作って発信し、多くの共感を得ていたわけです。そういった文化的な側面に感動して……僕、おそらく2010年からの3年くらいに発表されたボカロ曲は、ほぼすべて聴いたと思います。500再生くらいのマイナーな曲まで、全部把握しているんじゃないかなと。

――めちゃくちゃボカロオタクだったんですね!

水野あつ そうです(笑)。それが、ボカロに出会ったきっかけと、やってみようと思った流れになります。でも、すぐに大学受験になってしまったのでしばらくは音楽から離れるんですけど、大学生になってすぐにバンドを始めます。そしてせっかくやるならコピーじゃなくオリジナル曲をやりたいってことになって、DTMで曲を作り始めました。当時は、バンドで打ち込み音源を使っている人はあまりいなかったので賛否両論だったんですけど、これがすごくいい経験になりました。

――はい。

水野あつ で、このバンドは大学卒業と同時に解散してしまうんですけど、僕はずっと音楽をやりたかったので思い切って関西から上京して、シンガーソングライターとして活動を始めました。それが、2019年のこと。でも、自分の声で表現できるジャンルに限界を感じるんです。やっぱり女性の声を出すことはできませんし、幅が広がらないんですね。これがとんでもない壁で、「どうしよう……」と思い悩んでいたときに、思い出したのがボカロでした。自分で歌えないなら、ボカロに歌ってもらったらどうだろう……? と思って作ったのが、『生きる』という作品です。

▲2022年に投稿された水野あつさんの代表曲『生きる』。心に深く響く歌詞は多くのリスナーを魅了し、驚異の2200万回再生を達成した。

――水野さんの代表曲のひとつですね! でもそこに至るまでに、かなりの苦労をされたというのを読みました。就職が内定していたのも蹴ってしまって……とか。

水野あつ あ、そうですね。しかも僕、受験勉強のために一度は音楽をやめているんです。それなのに、大学の4年間で学んだことも活かさず、バイト生活をしながらの音楽活動なんて許されるのだろうか……という葛藤はずっとありました。

――ですよねー! すごくわかります。

水野あつ 考えたんです。サラリーマンになって、月7万円くらいの家に住んで安定した生活を送るのか、それともお金も住む家もなくなって、河原でMacBookだけを頼りに作曲を続けるのか……。「自分はどっちがいいんだ!?」と考えました。

――すごい2択ですね!!!

水野あつ そして、僕は後者を選んだんです。お金がなくても、まわりの人からなんと言われようとも音楽がしたかったし、やっぱり生きがいだったんですよね。

――うおおお……! アツいな!!

水野あつ でも、そっちを選ぶことは最初からわかっていたんですよね。高校生くらいのときから。でも、良くも悪くもマジメなので、「大学は出なきゃ……勉強するならそれなりの成績を取らなきゃ……いいところに就職しなきゃ!」と凝り固まって、本当の気持ちを押し殺していたんだと思います。

――はい。

水野あつ さっき「家がなくなってもいいから音楽を」って言いましたけど、決して比喩じゃないんです。東京に出てきてから住むところも無くなりかけて、お金も数円しかない……なんて時代もありましたから(苦笑)。

――水野さんのご両親が七夕の短冊に、「あつの音楽活動がうまくいって、ふつうの生活が送れますように」、「食べるのに困らない生活ができますように」って書かれているのを拝見して、正直泣きそうになりました。

水野あつ あーーー、そうなんですよーーー!(笑) 家族にはいまだに心配をかけっぱなしで…… 。でも、両親ともに僕の活動には肯定的で、すごく助けられています。僕が内定を断ったことを家族に打ち明けたときも、「うん、あつは仕事はできないと思う。音楽を続けたほうがいいね」って言ってくれて……。内定をいただいた企業様には、本当に申し訳なかったのですが……! でもだからこそ、死に物狂いでやらなきゃなと思って、ここまでやってきました。僕、音楽の才能なんてないと思っているので、本当にコツコツと……それこそ、自分のYouTubeのチャンネルを書いたビラを作って街で配り、登録者数を1000人まで伸ばしたりだとか(笑)。

――そんな草の根活動をされていたんですか!?

水野あつ そうなんです。やれることは全部やろう、って思って。なので楽曲以外の配信もやりますし、こういった取材も積極的に受けたいなと思っているんです。自分はふつうの一般人なんだ……とわかってから、がむしゃらになんでもやろうと決めました。

――そこで凹まずに、発奮材料にされているのがすばらしいです。

水野あつ 凹んじゃったら、河原での活動に直行ですからね!(笑)

――そんな水野さんに、ボカロPになるのに必要なスキルをお聞きしたいです。

水野あつ ぶっちゃけ、“ない”と思っています。いかようにもできることがボカロの魅力なので。たとえば、「DAWは必要ですか?」と聞かれてもそんなことはなくて、実際にボイスメモだけで楽曲を作っている人もいますし、ライブの弾き語り動画で神曲を発信されている方もいます。さすがにボカロのソフトを使わないと“ボカロP”を名乗れないのかもしれませんけど、“絶対にコレが必要”というものはないんじゃないかと思いますね。

――なるほど。

水野あつ 心に留めておいてほしいのは、“なんでもいいから自分がナンバーワンになれることを見つけて、それを伸ばしましょう”ということです。もっとわかりやすくいうと、“こだわりを持てることを見つけて、それを伸ばしていく”でしょうか。自分の優れていることをしっかりと見つけてあげて、努力を続けられることが、もっとも必要なスキルになるんじゃないかなと思います。

――わかりました! ではもうひとつ、ボカロPになってよかった……と思うことがあれば、ぜひ教えてください。

水野あつ それはもう、単純明快です。“『プロセカ』に楽曲を収録してもらえたこと”ですね!

――ではそんな『プロセカ』に、最後にひと言お願いいたします!

水野あつ わかりました。『プロセカ』がローンチされてから……もうすぐ4年ですか。浮き沈みがあると言われるボカロの世界を、再び大きく押し上げてくれたのは間違いなく『プロセカ』だと思います。いまや『プロセカ』は、ボカロとリスナーをつなぐ架け橋になってくれていると思うので、これからもボカロPのひとりとして、二人三脚で歩んでいけたらなと考えております! 僕は死ぬまで音楽を続けていきたいと思っているので、『プロセカ』も10年、20年とこの業界を盛り上げていってくれるとうれしいです!! そしてまた、機会があればご一緒できればと思っております!!

――期待しております! 本日は楽しいお話、本当にありがとうございました!!

 

水野あつ

2019年活動開始のボカロP / シンガーソングライター。 やさしい音楽をテーマにした楽曲を作っている。猫が好き。

 

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タイトル概要

プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク

■対応OS:iOS/Android

■App Store URL:https://itunes.apple.com/app/id1489932710

■Google Play URL:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.sega.pjsekai

■配信開始日:配信中(2020年9月30日(水)配信)

■価格:基本無料(アイテム課金あり)

■ジャンル:リズム&アドベンチャー

■メーカー:セガ/ Colorful Palette

■公式Twitter:https://twitter.com/pj_sekai