ドブフクロウのMtGブレイキングアカデミー vol.72 ~世界を臨む黒単アグロ~


By ドブフクロウ
みなさんこんにちは。MtGライターのドブフクロウです。
 
先週末には2020プレイヤーズツアーファイナルが開催されていました。こちらはマジックの版元であるWizards of the Coast社が主催するトップクラスの競技トーナメントです。当然ながら誰でも参加できるというものではなく、以下のいずれかの条件を満たすプレイヤーだけが参加できます。

  • プレイヤーズツアー上位入賞者
  • MPLプレイヤー24名
  • マジックフェスト・オンライン・シーズンズファイナルの優勝者と準優勝者

このいずれかの条件を満たすプレイヤーは全世界でもわずか145名。そんな選りすぐりの精鋭たちが、トップ8進出を懸けて2日間の激闘を繰り広げました。さらに今週末の8月1日(土)の25:00から、トップ8プレイヤーによるプレイオフが開催されます。
 
開始時間は遅いですが、マジック:ザ・ギャザリング日本公式による実況・解説付き生放送もあるので、興味がある方はぜひチェックしてみてはいかがでしょうか?(詳細はこちら/リンク先は外部サイト)
 
さて、今週はそんな2020プレイヤーズツアーファイナルの結果から、注目のデッキを見ていきます。
 

2020プレイヤーズツアーファイナル

上述したとおり、今大会はまさしく世界最高峰のトーナメントの一つです。そしてそのトップ8と言ったら“選び抜かれたプレイヤーの中のさらに上位8名”ということであり、マジックの競技シーンをチェックしている者なら誰もが知っているようなレジェント級のスタープレイヤーが集まっています。先程からボジョ○ー・ヌーヴォーの宣伝文句のような表現が続いてしまっていますが、もう本当にすごいトーナメント(語彙力絶無)なんですよ!
 
そんな最高峰のトップ8には、日本人プレイヤーの姿もありました。”Kumazemi”こと熊谷 陸選手です。
 

熊谷選手は関西のプロプレイヤーで、過去にプロツアーで準優勝を収めた経験もある日本屈指の強豪の一人です。独創的なデッキを作り上げることで知られるデッキビルダーでもあり、今大会でも使用者1名のみだった「黒単アグロ」を使用していました。唯一無二のデッキを持ち込んでしっかりと結果を残すというのがかっこいいですね。
 
そこで今回は、そんな熊谷選手が使用していた「黒単アグロ」のデッキリストを見ていきましょう。
 

黒単アグロ(使用者:熊谷 陸選手)
枚数 カード名(メインボード)
19 《沼》
4 《ロークスワイン城》
2 《総動員地区》
4 《どぶ骨》
4 《漆黒軍の騎士》
4 《帆凧の掠め盗り》
2 《黒槍の模範》
2 《死より選ばれしティマレット》
4 《狩り立てられた悪夢》
1 《残忍な騎士》
4 《騒乱の落とし子》
3 《悪ふざけの名人、ランクル》
3 《強迫》
4 《無情な行動》
枚数 カード名(サイドボード)
3 《苦悶の悔恨》
3 《闇の掌握》
3 《害悪な掌握》
4 《肉儀場の叫び》
1 《残忍な騎士》
1 《悪意に満ちた者、ケアヴェク》

 
スタンダード環境最強のデッキといえば「ティムール再生」か「バント・ランプ」、あるいはこれらのデッキのいいとこ取りをした「4色再生」と答える方が多いでしょう。実際、今回のプレイヤーズツアーファイナルでもこれらのデッキがトップメタで、そうしたメタゲームも多くのプレイヤーの想像通りだったと思います(これらのデッキのメタゲーム支配率は3デッキ合わせて66.2%)
 
しかしメタゲームについては大方の予想通りだったとしても、まさかトップ8に「黒単アグロ」が残るとは誰が予想できたでしょうか。先週は「白単アグロ」をご紹介させていただきましたが、「黒単」に関してはお世辞にも環境デッキとは言えない……というか、メタゲーム上には存在しないアーキタイプだったと言っても過言ではないでしょう。

▲《狩り立てられた悪夢》
▲《帆凧の掠め盗り》

しかしデッキリストを見てみると、『イコリア:巨獣の棲処』に収録された優秀なウィニークリーチャーである《狩り立てられた悪夢》や『基本セット2021』で再録された《帆凧の掠め盗り》など、粒ぞろいのクリーチャーが多数採用されています。さらにメインボードから《強迫》も3枚採用されており、《荒野の再生》を利用したスペル主体のミッドレンジデッキを強く意識していることがわかります。
 
他にもおもしろいカード選択が目立ちます。『テーロス還魂記』に収録されている《死より選ばれしティマレット》などはまさに黒単にうってつけのクリーチャーで、しかも《自然の怒りのタイタン、ウーロ》に対策できる便利なクリーチャーです。環境にフィットしたカード選択と大胆なデッキ構築。今回の「黒単アグロ」の快挙は決してマグレなどではなく、熊谷選手の確固たる思想に裏付けされた勝利であることがリストから伝わってきます。

▲《死より選ばれしティマレット》
▲《悪ふざけの名人、ランクル》

アグロデッキで扱うには4マナというマナ・コストが少々重く見える《悪ふざけの名人、ランクル》も、しかし環境の様々なデッキに対して強い1枚です。飛行・速攻を持ったパワー3のクリーチャーということで対戦相手のライフを削るのに貢献してくれますし、手札を減らしたりクリーチャーを生け贄に捧げさせたり、状況に応じてフレキシブルに能力を使い分けることで着実に対戦相手を追い詰めることが可能です。
 
こうして見てみるとかなり理にかなったデッキであるように思えますが、しかしやはりプレイヤーズツアーファイナルの舞台にこうしたオリジナルのデッキを持ち込むという胆力は凄まじいです。他にも、今大会では3名の日本人選手がオリジナルの「エスパーミッドレンジ」を持ち込んだことが話題になっていましたが、環境が凝り固まっているように見えるときこそ、案外オリジナルデッキが間隙を縫うことがあるのかもしれません。

 

ライター:ドブフクロウ  
 
青春時代のほぼ全てをテキストサイトやゲーム系サイトを徘徊することに費やしていた根暗ライター。人間としての軽薄さに定評があり、親しい間柄では「空っぽ」というあだ名で呼ばれることもある。 MtGプレイヤーとしての腕前は自他ともに認めるヘッポコだが、青春時代に (いろいろなものを犠牲にして) 培ったMtG知識量は他の追随を許さない。

 

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