パイオニア新妄想紀行 vol.10 ~グルーヴ感を生もう!~

3. セルフミル

 モダンにはライブラリーアウトというデッキが存在する。その名の通り、対戦相手のライブラリーを削りきることで特殊勝利を実現するデッキだ。

▲《水没した秘密》
▲《正気減らし》

 だが、《書庫の罠》も《不可思の一瞥》もないパイオニアでは対戦相手がこちらのライフをゼロにするよりも早く対戦相手のライブラリーを削りきることは難しい。《水没した秘密》《正気減らし》といったポテンシャルを秘めた削りカードはあるものの、あと一押しが足りないといった印象だった。
 
 だが、ここで私は気がついた……いや、気がついてしまったのである。

▲《慢性的な水害》
▲《タッサの神託者》

 逆に自分のライブラリーを削ればいいのでは???🤔🤔🤔
 
 前回の墓地アグロに近い発想ではあるが、《慢性的な水害》のように単純にライブラリーを削る速度だけで見るならばかなりのポテンシャルを持っているカードもあり、これを見逃す手はないだろう。
 
 肝心の勝ち手段は《タッサの神託者》が担ってくれる。《水没した秘密》《正気減らし》《慢性的な水害》とすべてパーマネントなので、設置すればするほど信心が増えていくという寸法だ。
 
 こうしてできあがったのがこちらの「セルフミル」だ!
 
『セルフミル』

枚数 カード名(メインボード)
10 《島》
4 《湿った墓》
4 《水没した地下墓地》
3 《イプヌの細流》
4 《神秘の賢者》
4 《タッサの神託者》
4 《ナルコメーバ》
4 《秘蔵の縫合体》
3 《縫い翼のスカーブ》
4 《感覚の剥奪》
4 《突発的変化》
4 《水没した秘密》
4 《慢性的な水害》
4 《正気減らし》

 

▲《ナルコメーバ》
▲《秘蔵の縫合体》

 ポイントは《ナルコメーバ》《秘蔵の縫合体》《縫い翼のスカーブ》といった墓地から戻ってくるクリーチャーたちを時間稼ぎのチャンプブロッカーとして採用しているのと同時に、《タッサの神託者》用の信心材料としても活用している部分にある。
 
 信心=10くらいの《タッサの神託者》で特殊勝利する瞬間はグルーヴィー間違いなしなので、一風変わった勝ち方をしてみたい方はチャレンジしてみるといいかもしれない。
 

4. ぬこ

 「基本セット2021」は、「猫」と「犬」をそれぞれフィーチャーしたセットでもあった。
 
 それゆえに圧倒的に猫派であるところの私は、「パイオニアで猫デッキを組めないだろうか?」という考えに思い至ったわけである。

▲《孤児護り、カヒーラ》

 猫デッキの強みは、《孤児護り、カヒーラ》を相棒として採用できる点にある。
 
 だが他方で、冒頭で述べたように現在はティムール再生がトップメタであり、そのデッキにはメインから《神々の憤怒》が積まれている。せっかく並べた猫たちが神の機嫌を損ねて業火の海に沈んでいくのを見守るしかないというのでは、集めた猫たちに申し訳が立たない。

▲《羊毛鬣のライオン》
▲《青銅皮ライオン》

 しかしかといって、せいぜいが3/3サイズくらいまでしかいない猫たちを神の暴虐から逃れさせるにはどうすればいいというのか。
 
 困り果てた私だったが……それでも、どうにか一つの解答を見つけ出したのである。

▲《ウルドのオベリスク》

 《ウルドのオベリスク》で「猫」を宣言して全員ムキムキにすればいいのでは???🤔🤔🤔
 
 《神々の憤怒》の射程圏からは逃れられるかもしれない代わり、せっかくのカワイイ猫たちが筋肉モリモリのケダモノと化してしまうのでは本末転倒かもしれないが、これも猫たちを生かすためであるからしょうがない。
 
 こうしてできあがったのがこちらの「ぬこ」だ!
 
『ぬこ』

枚数 カード名(メインボード)
5 《平地》
3 《森》
4 《寺院の庭》
4 《要塞化した村》
1 《陽花弁の木立ち》
4 《手付かずの領土》
1 《鳥獣保護区》
4 《駐屯地の猫》
4 《鎌豹》
4 《レオニンの先兵》
4 《聖なる猫》
4 《羊毛鬣のライオン》
4 《青銅皮ライオン》
4 《威厳あるレオサウルス》
3 《孤児護り、カヒーラ》
3 《議事会の裁き》
4 《ウルドのオベリスク》
枚数 カード名(サイドボード)
1 《孤児護り、カヒーラ》(相棒)

 

▲《手付かずの領土》

 このデッキのどこにグルーヴ要素が?と思われるかもしれないが、《手付かずの領土》で「猫」を宣言する瞬間こそが最高のグルーヴ体験なので、あとのことはもはや単なるオマケである。
 
 《ウルドのオベリスク》はvol.5で作ったような様々な部族デッキを実戦級に引き上げられるカードパワーを有しているので、マイナーなクリーチャータイプでも諦めずに探してみると、意外とデッキになったりするかもしれない。
 

おまけ: 白黒機体

 冒頭で「ティムール再生がトップメタとなった」旨を記述したが、トップメタが定まっているならば、当然それを打ち倒すデッキを作れないか検討したくなるのがデッキビルダーの性というものである。
 
 とはいえ、即死コンボは軒並み禁止されてしまったし、コントロールで対抗しようにも《荒野の再生》というカードはコントロール同型で滅法強いカードとなっている。
 
 ゆえに対抗しうるとしたらクリーチャーデッキとなるわけだが、問題は《自然の怒りのタイタン、ウーロ》と《神々の憤怒》という2種の対アグロ兵器を乗り越える必要があるという点にある。
 
 特に《神々の憤怒》は、モダンならばいざ知らずマナの誤魔化しのきかないパイオニアでは、3マナ域以下のクリーチャーはほぼ軒並み死滅してしまう制圧力を持っている。
 
 しかし、高い制圧力を誇るといえどパイオニアに存在するすべてのクリーチャーが葬られてしまうというわけではない。そこに私は希望を見出した。
 
 すなわち、「《神々の憤怒》が効かない高打点のクリーチャーデッキ」を組めばティムール再生を打ち破ることができるのではないだろうか?

▲《キランの真意号》
▲《歴戦の神聖刃》

 《キランの真意号》《歴戦の神聖刃》という2マナ域は、《神々の憤怒》の影響を一切受けずに高打点のクロックを突き付けることができる。厳密には《キランの真意号》は搭乗要員が巻き込まれてしまう可能性が大だが、プレイング面でケアすることも不可能ではない。

▲《騒乱の落とし子》
▲《思考囲い》

 さらに疑似的な3マナ圏として《騒乱の落とし子》を採用することで、2~3マナ圏で展開しながらも《神々の憤怒》を食らうことのないマナカーブが実現できるのだ。ダメ押しに《思考囲い》も入れておけば、《発展+発破》などのキーパーツに頼ったデッキであるティムール再生には劇的に刺さるだろう。
 
 だが、この考えには一つ問題があった。確かにこの構成ならばティムール再生を倒すことができるかもしれない。
 
 しかし他方で、その他のデッキに対してという観点だと、少しもっさりした中途半端なクリーチャーを毎ターン出すだけでシナジーのないバニラビートになってしまい、デッキパワーで押しつぶされてしまうことが予想されてしまうのだ。
 
 つまり必要なのは、相手がティムール再生かどうかにかかわらずどんな相手にも強力なシナジーのライン……すなわち、「殴りきる」という自分の動きを完遂できるだけの強烈なフィニッシュブロー
 
 そんな都合の良いコンボが、白黒というカラーリングで見つかるのだろうか……?
 
 「《キランの真意号》の搭乗要員であること」「3マナ以下であること」といった厳しい縛りの中でカードを探した私は、しかしその無理難題を克服する唯一無二の答えに、どうにかたどり着いたのだった。

▲《朽ちゆくレギサウルス》
▲《群れの統率者アジャニ》

 3マナ7/6バニラを飛ばして二段攻撃を持たせれば勝つのでは???🤔🤔🤔
 
 言うまでもなく7/6飛行二段攻撃という文字列にはグルーヴ感しかない。予測できない角度からの即死打点で、対戦相手を宇宙の彼方まで吹き飛ばすのだ。
 
 こうしてできあがったのがこちらの「白黒機体」だ!
 
『白黒機体』

枚数 カード名(メインボード)
2 《平地》
2 《沼》
4 《神無き祭殿》
4 《マナの合流点》
4 《秘密の中庭》
4 《コイロスの洞窟》
2 《ダークスティールの城塞》
4 《模範的な造り手》
4 《スレイベンの検査官》
4 《屑鉄場のたかり屋》
4 《歴戦の神聖刃》
4 《朽ちゆくレギサウルス》
4 《騒乱の落とし子》
4 《思考囲い》
4 《致命的な一押し》
4 《キランの真意号》
2 《群れの統率者アジャニ》
枚数 カード名(サイドボード)
2 《菌類感染》
2 《断片化》
2 《強迫》
2 《自傷疵》
2 《無情な行動》
2 《魂標ランタン》
2 《霊気圏の収集艇》
1 《墓掘りの檻》

 

 
 《神々の憤怒》をケアしつつ、1→2→3の動きで高打点のクロックを突きつける。これぞティムール再生というデッキの弱点を突いた、完璧なソリューションに思われた。
 
 ……の、だが。
 

 見るも無残な敗戦から学んだことは、トランプルのない単純な高打点だと《サメ台風》のトークンでチャンプブロックされたりして遅延されて意外と《発展+発破》が間に合って捌かれて死ぬという冷静に考えてみれば当たり前の教訓であった。
 
 やはりトップメタはそんなに甘くはない……とはいえ、見つけたティムール再生の綻びも当たらずとも遠からずといったところなので、これに懲りずにティムール再生絶対許さないマンとしてまた新たなデッキを作っていこうと思う (別に再生に個人的な恨みはないのだが、トップメタが固定されているという状況に対しては何となく反逆したくなるものなのである)。


 デッキ製作においてグルーヴ感を重視するということは、ある程度の完成度をあらかじめ犠牲にすることで、緩くコンセプトを許容するということでもある。
 
 その到達点は、ガチデッキとしては物足りないかもしれない。しかしすべてのガチデッキがはじめからガチな発想として存在していたわけではない。
 
 ガチになりうる発想の種は、むしろ往々にして自由でカジュアルな楽しみ方の中にこそ眠っているものなのである。ゆえにあまり気張らず、「グルーヴ感足りなくね?」くらいのノリで気軽にデッキを作っていくことこそがまずは重要なのだ。
 
 ではまた次回!
 

ライター:まつがん フリーライター。クソデッキビルダー。 論理的な発想でカード同士にシナジーを見出すのだが、途中で飛躍して明後日の方向に行くことを得意とする。 オリジナルデッキでメタゲームに風穴を開けるべく日夜チャレンジを続けている(が、上記のような理由で大体失敗する)。

 

パイオニア新妄想紀行 バックナンバー
パイオニア新妄想紀行 vol.1 ~パイオニアとは?~
パイオニア新妄想紀行 vol.2 ~環境の「ゼロ」を求めて~
【MtG】パイオニア新妄想紀行 vol.3 ~『テーロス還魂記』で遊ぼう~
パイオニア新妄想紀行 vol.4 ~他のフォーマットのデッキを再現しよう~
パイオニア新妄想紀行 vol.5 ~部族とともにあれ!~
  パイオニア新妄想紀行 vol.6 ~イコリア:巨獣の棲処で遊ぼう~
パイオニア新妄想紀行 vol.7 ~クレイジーで行こう~
パイオニア新妄想紀行 vol.8 ~強さの掛け算で目指せオーバーキル!~
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