【大塚角満のゲームを語る】第73回 『クレヨンしんちゃん「オラと博士の夏休み」~おわらない七日間の旅~』で、40年前の夏にタイムスリップした話

こんな時代が俺にもあったなぁ……

 7月15日にネオスから発売されたNintendo Switch用ソフト『クレヨンしんちゃん「オラと博士の夏休み」~おわらない七日間の旅~』が話題になっている。俺的にも、

 「やった!! 待ちに待っていた“クレヨンしんちゃん的夏休み”をようやく遊べるぞ!!!」

 と、華麗なサンバステップで発売のお祝いをしたくなるほど、長きにわたって待ち焦がれたソフトでありました。

 というのも、このゲーム……!!

 “あの”名作、『ぼくのなつやすみ』を作った綾部和氏率いるミレニアムキッチンが開発を担当!!! その雰囲気、空気感、抒情、ノスタルジー、そして微かに香る夏の匂いと一抹の寂しさ……などなど、ゲーム全体から漂ってくる気配が完全に『ぼくなつ』なんですよ皆さん!!

 発売日にソフトを購入してきてからプレイに没頭し、約6時間ほどでエンディングまで突っ走ってしまった……。これ、のんびりと遊ぶアドベンチャーゲームだからそんなに急ぐことなかったんだけど、

 「先の展開が気になるので……もうちょっとだけよん」

 なんて言いつつ、気が付けば最後までやっちまってたわ……。

 九州の田舎で過ごす、ごくふつうの、それでいて突拍子もない、どこかで見た覚えのある子どものころの夏休みの風景……。

 「ゲームの世界でもいいから、夏が待ち遠しかったあのころに戻ってみたいな

 そんなことを一度でも思ったことがある人は、躊躇なくこのゲームを手に取ってほしい。

 そう強く思ったので、ここにプレイレビューをしたためる次第であります。

田舎に帰りたくなるゲーム

 誤解を恐れずに言えば、『クレヨンしんちゃん「オラと博士の夏休み」~おわらない七日間の旅~』は、しんちゃんとその仲間たちによってくり広げられる“『ぼくなつ』ライク”なアドベンチャーゲームだ。

 物語の舞台は、九州の熊本県……の、“アッソー”という小さな町。しんちゃんの父・ひろしの出張に合わせて、野原家は一家そろって母・みさえの故郷であるこの地で1週間の夏休みを過ごすことになったのだ。

 野原家がお世話になるのが、みさえの幼馴染であるヨヨコが暮らす“ひのやま家”。食堂を経営していて、みさえは繁忙期の助っ人として招かれたってわけ。

 そして、件のアッソーに向かう道すがら、くまモンの前で、妙なじいさんから“撮った写真がイラストになる”という変わったカメラをもらったことで野原家の……いや、しんちゃんの夏休みが不思議なドタバタで彩られることになるのだ。

 突如、アッソーに現れた巨大恐竜たち。

 ナゼか、新聞記者(!)として働くことになったしんちゃん。

 小さな町のすべてを使った、短くて長い(意味深)7日間の旅。

 どうして、太古の生き物であるはずの恐竜が出現したのか??

 しんちゃんたちの夏休みは、どうなってしまうのか!??

 ……なんか、サスペンスアドベンチャーのレビューのような表現が並んでしまうけど、もちろんそんな深刻な話にはなりません。少しずつに見えてくる事の真相すら懐かしくて甘酸っぱく

 「ああ……! そういうの、自分も経験あるよ……^^」

 と不思議と納得してしまうような、抒情的なお話が徐々に(シャレ)紡がれていくのである。

 とはいえ、慌ててストーリーを進める必要も、じつはそんなにないんだけど^^;

 しんちゃんたちは夏休みを満喫するためにアッソーまで来たんだから、時間が許す限り自由に、好きなことをして遊んでいいのだ。

 そう……!

 俺がまだ子どもだったころに広がっていた、日本の原風景ともいえる素朴で美しい景色の中で--。

 このゲームは、カメラをグリグリ回して好きな方向から眺めるといういまどきのソレではなく、水彩画のような美しい2Dの背景の中を移動し、端まで移動するとつぎの画面に切り替わる……という画面切り替え式を採用している。

 ゆえに、操作キャラ(しんちゃんだけど)を奥の方まで進ませると米粒のように小さくなって若干見づらい……なんてこともあるんだけど、このゲームに関しては止め絵の美しい背景こそがふさわしいので、3Dのグリグリグラフィックじゃなくて本当によかった! と素直に思った。

 昭和の夏を過ごしたおっさん、おばちゃんの心の中には、このゲームに出てくるようなキラキラの夏休みの景色が、何枚も何枚も絵のようになってベタベタと貼り付けられている。俺が初めてアッソーの町を駆け巡ったときに思ったのは、

 「これ、俺が育った下仁田の景色じゃね!!? そこから切り取ってきて絵にしたの!!?」

 ってことで、この想いはきっと、俺と同じアラフィフ世代のプレイヤー全員が感じたことなんじゃないかと思うのである。 

 そんな田舎町でしんちゃんは、ときに虫取りをしたり、

 魚釣りをしたり、

 ナゼか、かすかべの友だちとソックリなアッソーの少年たちと“恐竜バトル”で戦ったりもする。

 そして、物語のカギを握る新聞記者としての活動とおつかい。

 すべてが楽しく、そしてちょっと切ない、きっと多くの人が経験したであろう夏のひととき。いまでは思い出になってしまった数々の出来事が、この『クレヨンしんちゃん「オラと博士の夏休み」~おわらない七日間の旅~』には詰まっている。

 慌てず騒がず、どこまでものんびりと、しんちゃんの夏を体験してほしいなあ。

大塚(おおつか) 角満(かどまん)
1971年9月17日生まれ。元週刊ファミ通副編集長、ファミ通コンテンツ企画編集部編集長。在職中からゲームエッセイを精力的に執筆する“サラリーマン作家”として活動し、2017年に独立。現在、ファミ通Appにて“大塚角満の熱血パズドラ部!”、ゲームエッセイブログ“角満GAMES”など複数の連載をこなしつつ、ゲームのシナリオや世界観設定も担当している。著書に『逆鱗日和』シリーズ、『熱血パズドラ部』シリーズ、『折れてたまるか!』シリーズなど多数。株式会社アクアミュール代表。